読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

辻惟雄『日本美術の歴史』(東京大学出版局 2005)瑞々しい図版と読ませる文章でおくる辻版日本美術史

書店(BOOKOFFだけど)で手に取って棚に戻さなかったのは、図版のたたずまいがキリっとしていてチョイスもどことなく変わっていたため。表紙も横尾忠則デザインで只者ではなさそうな雰囲気はあったが、橋本治の『ひらがな日本美術史』にも通じるところのある、個人の視点が大変刺激的で大変参考になる日本美術愛あふれる一冊だった。
縄文土器や銅鐸に関する記述からはじまって、現代のジブリ作品や大友克洋まで、自分の眼を通して生まれた感動と衝撃をベースに書かれた辻惟雄の文章は印象深く、記憶に残る情報がとても多い。
読んでいない人にも伝わるような、これぞ辻惟雄という特徴が出ている文章はなにかなと軽く数回見返してみていたなかで、黒田清輝「智・感・情」(1899)についての記述が目に止まった。

かれは、西欧アカデミズムの「構想図」を日本に移植すべく誠実に努力した。金地をバックに、日本の裸婦のプロポーションを理想化して三尊仏のように配した「智・感・情」(一八九九)は一九〇〇年のパリ万博に出陳されて好評だったというが、二〇〇四年から〇五年にかけて東京国立博物館等で開催された「万博展」で、厚ぼったい西洋アカデミシャンの絵の中に置かれたのを見ると、日本的な平面性が清潔な印象を与え好ましかった。西洋アカデミズム対する、かれなりの最善をつくした回答であろう。
(第10章 近・現代(明治―平成)の美術 2「近代美術への新動向[明治美術・続]」p365-367)

日本的感性と対象を油彩画で描くことの困難と達成を自身の鍛え上げた審美眼とともにサラッと書き伝えてくれる辻惟雄の著述家としての魅力がでている文章であると思う。それから「智・感・情」のモデルが、私の好きな池谷のぶえ30歳くらいを連想させるというのもオマケになっている。

 

日本美術の歴史 - 東京大学出版会

 

目次:
まえがき
第1章 縄文美術――原始の想像力
第2章 弥生・古墳美術
第3章 飛鳥・白鳳美術――東アジア仏教美術の受容
第4章 奈良時代の美術(天平美術)――唐国際様式の盛行
第5章 平安時代の美術(貞観・藤原・院政美術)
第6章 鎌倉美術――貴族的美意識の継承と変革
第7章 南北朝・室町美術
第8章 桃山美術――「かざり」の開花
第9章 江戸時代の美術
第10章 近・現代(明治―平成)の美術
文献案内
掲載図版一覧
索引


辻惟雄
1932 -