読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

清沢満之(1863-1903)の原稿原文と今村仁司の現代語訳比較サンプル

明治期の清沢満之の文章は今現在でも読めないということはない。特殊用語の注釈が入ってくれていれば特に問題なく読めることは読める。書き手の息遣いのようなものも原文のほうが色濃く感じることもできる。ただ、現代語訳にしてもらえるなら意味内容はとらえやすく、記憶に残りやすいのも確かだ。

清沢満之と同時代を生きた文筆家としては正岡子規(1867-1902)や樋口一葉(1872-1896)二葉亭四迷(1864-1909)などが思い浮かぶ。言文一致の動きが出てきた端境期の作品で、原文と現代語訳の両方読めるというのはある意味贅沢なことなのかもしれない。

 

【原文】

蓋し吾人の道に達し特に進む能わざるは、只自己の云為(うんい)[言行]能力のみを以て道徳を造作せんとするによる。所謂虚偽虚飾偽善偽徳の氾濫するは、畢竟、此が為なり。蓋し道徳を以て一己(いっこ)の私行(しこう)[個人的な行為]となし、その成績によりて以て己が威福[威力や情で他人を支配したり束縛したりする]の資に供せんとするによるものなり。
岩波文庫清沢満之集』精神主義 2-2 万物一体 p82 []内の割注は山本信裕によるもの)

 

今村仁司現代語訳】

考えてみると、われわれが道に達し徳に進むことができないのは、ただ自分の言語能力と行動能力だけをもって道徳を作り上げようとするからである。虚偽虚飾とか偽善偽徳と世にいわれるものが氾濫するのは、つまるところ右に述べたことに由来する。考えてみると、道徳をもって自己一身だけの私行となし、そのできばえに応じて自分の威信や幸福のもとでにしようとするからである。
岩波現代文庫『現代語訳 清沢満之語録』精神主義 2-2 万物一体 p232)

 

現代語訳で思想に触れて、興味を持ったら原文にも当ってみるという順番が入りやすいであろうことは確か。さらに『現代語訳 清沢満之語録』は業績全般にわたっているのに比較して、岩波文庫清沢満之集』は後期思想にターゲットを絞っているという差異もある。岩波文庫では日記などの肉声に触れられるという利点もあるが思想全般を知るには岩波現代文庫版が有利。

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【目次】

安冨信哉編、山本信裕校注『清沢満之集』岩波文庫 2012

第1部 他力の大道
 親鸞聖人御誕生会に(他力の救済)
 我は此の如く如来を信ず(我信念)
 エピクテタス氏
 『臘扇記』(抄)
第2部 精神主義
 精神主義
 万物一体
 自由と服従との共存・共働
 科学と宗教
 精神主義と物質文明
 宗教は目前にあり
 競争と精神主義
 先ず須らく内観すべし
 精神主義と唯心論
 精神主義と他力
 迷悶者の安慰
 精神主義と三世
 精神主義と共同作用
 絶対他力の大道
 生活問題
 宗教的道徳(俗諦)と普遍道徳との交渉
第3部 仏教の改革
 教界時言発行の趣旨
 大谷派宗教改革の方針如何
 仏教者蓋自重乎
 教界回転の枢軸
第4部 信仰の諸相
 仏教の効果は消極的なるか
 他力信仰の発得
 祈禱は迷信の特徴なり
 真の朋友
 『当用日記』(抄)

 

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今村仁司編訳『現代語訳 清沢満之語録』岩波現代文庫 2001

第1部 宗教哲学
 宗教哲学骸骨
 他力門哲学骸骨(試稿)
 縁起存在論
第2部 精神主義
 精神主義
 精神講話
 修養語録
 修養語録

 

 

清沢満之
1863 - 1903
今村仁司
1942 - 2007