読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

森村泰昌『「美しい」ってなんだろう 美術のすすめ』(理論社 よりみちパン!セ 2007)美術家という変わった職業の内幕を覗く

かつて理論社の「よりみちパン!セ」ホームページで連載されていたものの書籍化。中高生を中心に美術の見方をレクチャーする一冊。「西洋美術史になった私」「日本美術史になった私」「女優になった私」など過去の絵画作品や人物に扮したにセルフポートレイトで知られる森村泰昌が生き、拡げているところの美の世界を、自身の作品をメインに、読者の多くの質問に答えながら、分かち合おうとしている姿勢が真摯で好感が持てる。まねながら進む、新たな配合を試しながら進むことを推奨している。

科学的な発明や発見、芸術的な独創性、こういったものは、とつぜん生まれるわけではないのです。すごいなあ、いいなあと感動できる先輩たちの業績に影響さ、それらをまねて、いろいろやっていくうちに、いままでになかった新しい世界が開けてくるのです。
無から有は生まれません。まずは、「すばらしい!」とすなおに感動できる世界を見つけだしてください。そしてそれをまねてみてください。すべてのはじまりはそこにある。
(4時間目 ものまね美術館 p110 )

ミメーシス(摸倣)を美術の本質ととらえているところは、しごくまっとうで古典的な言説なのだが、森村泰昌の作品をそう簡単に美しいということばで表現するのは難しい。美しいというよりは何かおかしくてムズムズする作品世界。大西克禮の『美学』のカテゴリーでいうとフモール(ユーモア、有情滑稽)に属しているだろう。モデルとなるものを称揚しながら、増幅させ、ゆらぎを与え、自分の個性も主張する。

 

掲載図版の中では
2時間目 モリムラ美術館 図9 写楽・定之進としての私, 1988
9時間目 「地球美術史」美術館 図5 私の中のフリーダ, 2001
に特に目を惹かれた。

加工してあるのだろうが、脱毛しているんじゃないかと思えるくらいに肌がきれいなところにも作家としての矜持が見える。

 

目次:
1時間目 私は美術家です
2時間目 モリムラ美術館
3時間目 ふしぎ美術館
4時間目 ものまね美術館
5時間目 芸術vs芸能美術館
6時間目 しあわせvsふしあわせ美術館
7時間目 ほねぐみ美術館
8時間目 おおきさ美術館
9時間目 「地球美術史」美術館
10時間目 いつでもどこでも美術館

 

森村泰昌
1951 -