読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

小川剛生訳注『正徹物語 現代語訳付き』(角川ソフィア文庫 2011) 正徹は室町時代の塚本邦雄かも

室町中期の禅僧で歌人の正徹の歌論書。本人多作で難解な歌が多く異端視されることもあるらしいが、古今の歌に通暁し、なかでも定家を愛し、歌論にも優れているという存在。途中から室町時代塚本邦雄みたいなものかと思いつつ読んだ。辛口なところも似ている。

前半は本文に脚注、後半が現代語訳の構成。
現代語訳のほうがさすがに意味はとりやすいが、本文の時と現代語訳の時で目に止まる箇所が違ってきたりするので、両方読む価値はあると思う。和歌を読むなら、古文に馴染む必要もあるので、順番どおりに読みすすめていくのが吉。全213段、正味135ページ(現代語訳は99ページ)。いっぺんに読み通せる分量で、内容も豊富。幽玄についての言及も多い。また、歌が上手くなるにはひたすら数寄の心をもって素直に多く詠んでみることが大事と何度も言われているのが印象に残る。

ただ、数寄の心ふかくして、昼夜の修行おこたらず、まずなびなびと口がろに詠みつけなば、自然と求めざるに興ある所へ行きつくべきなり。(中略)ただ、不断の修行をはげまして年月を送るは、終に自得発明(じとくはつみょう)の期あるべきなり。ただ数寄に越えたる重宝も肝要もなきなり。上代にも数寄の人々は古今の大事をもゆるし、勅撰にも入れられ侍り。誠の数寄だにあらば、などか発明の期なからむ。(第213段)

好きなものに打ち込んでいればどうにかなりますよ、どうにかなっていなければ好きさが足りないんだね、という師匠クラスの歌人のことば。

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【付箋箇所 段数】
17, 19, 22, 24, 25, 43, 60, 75, 81, 92, 138, 146, 149, 174, 178, 184, 186, 198, 203, 210, 213


正徹
1381 - 1459
小川剛生
1971 -