現在最新の宮下志朗の一代前の『エセー』完訳者、一番流通しているであろう岩波文庫版『エセー』翻訳者によるモンテーニュの評伝。生涯と思想という括りできっちり語られているので、重量感はこちらのほうが宮下志朗『モンテーニュ 人生を旅するための7章』よりも重い。『エセー』本文を細かく刻んで正確に且つ多めに引用して紹介する手法も、時間をとっての味読鑑賞の支えとなるよう作り込まれているようで、ちょっとした学問的安定感も感じられる。
自然の幸福はあまりに追い求めても、また、あまりに避けすぎてもいけない。モンテーニュの方法は、ストア派のように情念を克服し抑圧するのではなくて、情念を自然のものとして受け入れ、ぎりぎりのところまで享楽した上で、その情念が苦痛に変わらぬ先に、節制を用いてこれを避けるのである。(中略)「私にとっては、情念を抑えることは難しいが、避けることはやさしい。……ストア派の気高い不動心に達することのできない者は、この私のいう庶民の愚鈍の懐に逃げ込むがよい。ストア派が徳によって行っていたことを、私は性格で行なうように自分を仕込んでいる」(三の十)。
(Ⅲ 『エセー』におけるモンテーニュの思想 「快楽について」 p150-151 )
たとえば快楽についてのモンテーニュの考え方については、「ストア派の徳」に対して「節制」と「庶民の愚鈍の懐」が使用されているというように、読解と興味付けのためフックを少し硬めの文章で的確にピックアップしてくれている。
【付箋箇所】
2, 4, 5, 6, 11, 12, 33, 39, 45, 49, 51, 59, 70, 75, 83, 101, 103, 109, 113, 114, 123, 136, 138, 143, 150, 151, 160,
目次:
はじめに――モンテーニュと『エセー』
Ⅰ モンテーニュの生涯
Ⅱ 『エセー』における思想の展開
Ⅲ 『エセー』におけるモンテーニュの思想
年譜
『エセー』総目次
あとがき
ミシェル・ド・モンテーニュ
1533 - 1592
原二郎
1919 -