読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『世界詩人全集 11 ゲオルゲ/ホーフマンスタール/カロッサ』と『世界詩人全集 17 アポリネール/コクトー/シュペルヴィエル』(新潮社 1968)十九世紀末から二十世紀前半期に活動したドイツとフランスの個性的な詩人たち

二冊ともに図書館の貸し出し期間の二週間で二周半くらいづつ読んだ。個性はそれぞれ異なるが、喚起性の強い詩的言語表現をする詩人たち。この六人から何かしら影響を受けて、言葉が漏れ出てくれればと思いながら読んだのだけれど、人や物に接して行動することの少ない私には、なかなか自分自身と世界に結びついた言葉が浮かんでこない。想像力も乏しいためにフィクションの言葉も浮かんでこない。せめて真似を、パスティーシュをと思ってみても、真似ができるくらい対象に染まるには、もっと浴びるようでなければ無理か。感性が枯れてきているのであれば水分を吸ってもよさそうなものだが、組織が死んでいるのか、ダダ洩れなのか。言葉の保水力がもうすこし欲しいなあ。

 

[ドイツの詩人]

シュテファン・ゲオルゲ(1868 - 1933)付録エッセイ 高辻知義, 訳・解説 川村二郎
 付箋:「盛夏」「これから後は どんな仕事もわたしにはかなわない」「悲しみのうちにやむなく」「ほとぼりのすべて消え失せた」「一人の少年がわたしに秋と夕べの歌をきかせた……」Ⅲ「夜の歌」「ニーチェ」「わたしらがめぐりあう道という道は」

フーゴ・フォン・ホーフマンスタール(1874 - 1929)付録エッセイ 飯吉光夫, 訳・解説 富士川英郎
「私のために……」「世界の秘密」「リヒャルト・デーメルにあてた手紙」「外面生活の歌」「私たちは道を歩いていった」

ハンス・カロッサ(1878 - 1956)付録エッセイ 串田孫一, 訳・解説 高安国世
「蝶に」「盲人」「岸辺の霊と蝶」「病人」「なぜ私たちは……」「闇がしだいに濃くおりる」「あいさつ」「恋の神秘」「ひそかなる風景」「荒涼とした深い谷間に……」「猫に」「生の日」「夢想から覚めて」

 

[フランスの詩人]

ギヨーム・アポリネール(1880 - 1918)付録エッセイ 佐藤朔, 訳・解説 渡辺一民
「地帯」「愛されぬ男の歌」の七つの剣「夢判断」

ャン・コクトー (1889 - 1963)付録エッセイ 曾根元吉, 訳・解説 堀口大學
「山鳩」「ばらの花びらそっくりの縁のまくれた微笑が」「人の気になぞ入るまいと一向平気な詩の女神たち、」「睡眠者のモデル」「一人一党」「道は短い……」「」

ジュール・シュペルヴィエル(1884 - 1960)付録エッセイ 柳沢和子, 訳・解説 飯島耕一
「幽霊」「昨日と今日」「心臓」「オロロン=サント=マリー」「きみは罪をくやむ」「カルナヴァレ博物館」「詩人フリオ・エレーラ・イ・レイシッグへの頌詞」

 

ドイツの詩は聖なるものを自分に回収しようとする傾向が強く、フランスの詩は自分を聖なるものに解放しようとする傾向が強い。結晶化指向と気化芳香化の世界溶解指向。重力崩壊の威力と軽さの美徳。

六人の中で私がいままでいちばん読んでいる詩人は、ハンス・カロッサ。『世界詩人全集』では40ページに1作くらいずつ原文が載っていて、そこで他の詩人たちと比べてみると、韻も詩形も詩人という括りの中ではこだわりの弱い人なのかなという感じを持つのだが、翻訳で意味内容中心に読むと断然せまってくるものがある。ときに美しく、ときに妖しく、ときに不吉な蝶が、目線の高さの近距離で舞い羽搏く。

荒涼とした深い谷間に
おまえひとりいるのではない。
灰色の視界にじっと目をこらすがいい。
やがておまえの視線でともるひとつのまなざしがあるはずだ。
(ハンス・カロッサ「荒涼とした深い谷間に……」全 高安国世訳)

わたしを見るもうひとりのわたしを垣間見させる詩句。ゆさぶりかける詩句。


シュテファン・ゲオルゲ
1868 - 1933
フーゴ・フォン・ホーフマンスタール
1874 - 1929
ハンス・カロッサ
1878 - 1956
ギヨーム・アポリネール
1880 - 1918
ジャン・コクトー
1889 - 1963
ジュール・シュペルヴィエル
1884 - 1960