読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【お風呂でロールズ】02.『政治哲学史講義』ホッブズ(講義Ⅰ~Ⅳ+補遺) 教師がサービス業であることを思い出させてくれる講義

マイケル・サンデルの白熱教室のような討論形式の講義ではなく、オーソドックスな教授型の講義が目に浮かんでくるような講義録。特徴的なのは、ロールズの人柄がそうさせるであろうような誠実さと慎重さを基本にそえた論考の姿勢と、学生たちへ提供された資料の細やかさ。補助体制の充実。ロールズは4回の講義でホッブズの『リヴァイアサン』の政治思想を、自然状態と社会契約という中心概念を、長年にわたる自身の研究において現在もっとも信をおいている解釈として、学生たち一人一人に吟味してもらうようなかたちで、提示している。

私は、人類の一般的状態は立った二つの安定した状態しかなく、その一つは自然状態であり、それは戦争状態であるというのがホッブスの味方であると考えています。もう一つを「リヴァイアサンの状態」と呼べるかもしれません。そこには、ホッブズがときとして述べているように、自然法を強制し、各人がそれにもとづいて行為するのを確実にする、絶対的主権者が存在します。
自然状態が戦争状態になる理由、また、そこから逃げ出すのが困難であるという意味でそれが安定した状態である理由は、実効的な主権者が存在しないということです。信約は何の役にも立ちません。というのも、ホッブズが言ったように、その種の言葉は、それを守ることについて自分以外の人を誰も信頼することができないゆえに、効果を持たないからです。その理由は、主権者が不在であるとき、最初に実行する人は、ほかの当事者も確実に実行するようにする方法をもたないということです。
(講義Ⅳ 主権者の役割と権力 p151 )

講義の後で、学生たちはレポートを提出することになるのだが、そこでは、ロールズの講義内容を起点として、自分でホッブズの著作を読み、彼の政治思想をまとめて、自身の見解を含めて論述しなければならない。その際に、講義自体がホッブズの思想に関心をもちやすく、丁寧で見通しの良い紹介をしてくれているうえに、講義の補遺においてホッブズの者作のどの部分に何が書かれているのかという、心強い読み解きのための資料も提供してくれている。受講した大学生たちはさぞかし満足したことだろうと思う。一流の講師の講義を受けられるだけでなく、テクスト読解の詳細な資料まで提供してくれるなんて、授業料以上の価値を感じることができただろうと羨ましく思いながら読んだ。

【マーキング箇所】
50, 51, 57, 58, 59, 60, 61, 62, 64, 66, 68, 82, 87, 88, 89, 95, 96, 97, 98, 99, 112, 115, 124, 127, 138, 151, 164, 168, 175, 177

www.iwanami.co.jp

ロールズ『政治哲学史講義Ⅰ』(原書 2007, 岩波書店 2011, 岩波現代文庫 2020 )
※サミュエル・フリーマン編, 訳:齋藤純一, 佐藤正志, 山岡龍一, 谷澤正嗣, 髙山裕二, 小田川大典

ホッブズ
講義Ⅰ ホッブズの世俗的道徳主義と社会契約の役割
 第一節 序 論
 第二節 ホッブズの世俗的道徳主義
 第三節 自然状態と社会契約の解釈
 補遺A 自然状態を不安定にする人間本性の特徴(ハンドアウト
 補遺B
 補遺C 寛大な本性の理念に関連した箇所
講義Ⅱ 人間本性と自然状態
 第一節 はじめに
 第二節 人間本性の主要な特徴
 第三節 ホッブズの命題のための議論
 補遺A 自然状態→戦争状態というホッブズの主張のアウトライン(ハンドアウト
講義Ⅲ 実践的推論についてのホッブズの説明
 第一節 理に適っていることと合理的であること
 第二節 市民和合の理に適った条項の合理的基礎
 補遺A ホッブズにおいて道徳的義務は存在するかどうか
 補遺B ホッブズ自然法――『リヴァイアサン』第一四 ― 一五章
講義Ⅳ 主権者の役割と権力
 ホッブズと立憲デモクラシーについての結語
 補遺A 主権者の役割と権力(ハンドアウト
 補遺B 『市民論』と『リヴァイアサン』の対照について――主権者の再- 制度化
補遺 ホッブズ索引


トマス・ホッブズ
1588 - 1679
ジョン・ロールズ
1921 - 2002