読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

荒木昭太郎『モンテーニュ 初代エッセイストの問いかけ』(中公新書 2000) 明晰な存在への陶酔

著者70歳での著述。モンテーニュの訳者、研究者としての海外調査旅行、シンポジウム参加などの様子が織り交ぜられてモンテーニュが語られている。どことなく退官記念の記念出版物のような、力の抜けた味わいがある。著者はクラシック音楽にも造詣が深く、本書ではモンテーニュを語る際にクラシックの楽曲や演奏を比喩として用いたりしているので、音楽方面に暗い人間にはすこし閾の高い高尚なエッセイ集という感じにもなっている。描き出されているモンテーニュも、著者の想いが大きいためか、著者の文章スタイルのためか、どことなく聖人視されている傾きもある。宮下志朗と原二郎という他の二訳者とはまた違った、尊敬する人物を顕彰するように書かれたモンテーニュと『エセー』の紹介の書。

現在はアキテーヌ地域博物館に納められているモンテーニュの墓碑には、豪華といってよい枕がしつらえられている。彼の遺骸はないものの、この象徴的な安らいの姿は、個人の自在に漂う想念の回転と飛躍を静かに支えるかたちとなっていようか。
(9 晴れやかな知 p158-159 )


【付箋箇所】
98, 149, 178

目次:
1 『エセー』という本
2 「読書室」のなかで
3 テクストを編む
4 孤独と憂うつ
5 自分を描くとは
6 探索のスタイル
7 表現のいろいろ
8 相手と仲間と
9 晴れやかな知
10 信仰の名のもとに
11 生活と生存の条件群
12 ひろがる地平線

ミシェル・ド・モンテーニュ
1533 - 1592
荒木昭太郎
1930 -