読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

見田宗介『社会学入門 人間と社会の未来』(岩波新書 2006)二十一世紀以降のユートピアについての提言

2017年2月の6章改訂版以前の版での繙読。改訂前後の6章の目次を見る限り、2018年出版の『現代社会はどこに向かうか 高原の見晴らしを切り開くこと』で改訂分は補完可能(序章が改訂版6章と同一)。20世紀後半の人間増殖のピーク時と後続のピークアウト時がもたらした絶望的な共同体の解体状況と近代社会の行き詰まり状況を分析する中でも、あっけらかんと未来のユートピアを語れてしまう特異性が目を惹く。暗にどうにもなりませんねと滅入るばかりの言辞を重ねても、それこそどうにもならないことを知悉したうえでの、希望の言葉の発信なのかと思ってみたりする。希望の思想家ともいわれるエルンスト・ブロッホも、現実側からの厳しい視線で批判吟味されてこそ希望は希望として鍛え上げられていくという趣旨のことを言っていたと思うが、まずは現実側からの批判を迎え撃つだけの構えを持つ人の発信と受け止めた。可能な世界の実現に賭ける知の挑戦。

具体的な仕方で展開しておくならば、これは個々人が、自在に選択し、脱退し、移行し、創出するコミューンたちである。このようにユートピアたちを選択し、脱退し、移行し、創出することの自由は、再び外域の市民社会の、――正確に言えば、ユートピアたち相互の間の関係の協定 agreement としての――ルールのシステムによってはじめて現実に保証されることができる。
(補 交響圏とルール圏――〈自由な社会〉の骨格構成 5「交響するコミューン・の・自由な連合」 p182 太字は実際は傍点)

交響圏とルール圏からなる最大限に自由が自由になる世界。方向性に何もケチをつける理由はないのだが、コミューンの運営の実際、ルール策定システムの骨格などについては、具体的なレベルではまったく手つかずの状態で本が閉じられてしまっているので、実現に向けての取り組み方は、本書のなかの現状分析で使用された社会学や哲学や文学の歴史的業績から、おのおの探っていくほかはない。その代わり、入口についてはたくさん埋め込まれている。マルクスウェーバーバタイユサルトル、テンニース、柳田国男などなど。読むというところからはじめてみる人間には、ながく刺激を与えてくれるであろう一冊。

 

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【付箋箇所】
3, 13, 21, 58, 62, 68, 93, 122, 157, 165, 174, 181, 182, 201

 

目次:
序 越境する知――社会学の門
1 人間の学/関係の学
2 社会学のテーマとモチーフ
  初めの炎を保つこと
   〈コラム〉「社会」のコンセプトと基本のタイプ

一 鏡の中の現代社会――旅のノートから
 1 〈自明性の罠〉からの解放
 2 「近代という狂気」
 3 見える次元と見えない次元。想像力の翼の獲得
   〈コラム〉コモリン岬の子どもたち

二 〈魔のない世界〉――「近代社会」の比較社会学
 1 花と異世界。「世界のあり方」の比較社会学
 2 色彩の感覚の近代日本史
 3 〈魔のない世界〉
 4 ツァウベルのゆくえ

三 夢の時代と虚構の時代――現代日本の感覚の歴史
 1 「理想」の時代――プレ高度成長期
 2 「夢」の時代――高度成長期
 3 「虚構」の時代――ポスト高度成長期

四 愛の変容/自我の変容――現代日本の感覚変容
 1 「共同体」からの解放
 2 時代の基層の見えない胎動
 3 リアリティ/アイデンティティ/関係の実質
   〈コラム〉愛の散開/自我の散開

五 二千年の黙示録――現代世界の困難と課題
 1 黙示録の反転。「関係の絶対性」の交錯
 2 勝利の方法。社会の魅力性
 3 黙示録の転回。
  「関係の絶対性」の向こう側はあるか

改訂前
六 人間と社会の未来――名づけられない革命
 1 S字曲線。「近代」の意味
 2 人間の歴史の五つの局面。「現代」の意味
 3 現代人間の五層構造
 4 名づけられない革命

改訂版
六 現代社会はどこに向かうか――高原の見晴らしを切開くこと
 1 未来の消失。現代の矛盾
 2 生命曲線。歴史曲線――「現代」とはどういう時代か
 3 脱高度成長期の精神変容――近代の矛盾の「解凍」
 4 グローバル・システムの危機。あるいは球の幾何学
  ――情報化/消費化社会の臨界
 5 世界の無限。世界の有限
 6 高原の見晴らしを切開くこと

補 交響圏とルール圏――〈自由な社会〉の骨格構成
 1 「シーザーのものはシーザーに」
  ――魂のことと社会の構想
 2 〈至高なもの〉への三つの態度
  ――社会の構想の二つの課題
 3 社会構想の発想の二つの様式。他者の両義性
 4 〈関係のユートピア〉・間・〈関係のルール〉
  ――社会の構想の二重の構成
 5 交響するコミューン・の・自由な連合
 6 共同体・集列体・連合体・交響体
 7 モデルの現実化Ⅰ 圏域の重合/散開
 8 モデルの現実化Ⅱ 関係の非一義性
 9 二千年の呼応

参考文献
あとがき
改訂版あとがき

見田宗介真木悠介
1937 -