読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【お風呂でロールズ】05.『政治哲学史講義』ヒューム(講義Ⅰ~Ⅱ) 功利主義者としてのヒュームの政治思想

ホッブズ、ロックの社会契約説からヒュームとミルの功利主義へ講義は移る。自然法による原始の契約から効用の原理での合意選択へのイギリスの政治思想の流れをみながら、ロールズは経験主義哲学者でもあるヒュームの政治思想の面を、主にロックとの対比で語っている。たとえば正義については、ロックが自然的な徳を基礎として語るのに対し、ヒュームは公共的効用がもたらす結果についての反省が唯一の基礎となるという具合で語られている。どちらが優れているかということにロールズは焦点を合わせず、それぞれの時代状況と対峙していたものについての問題解決の姿勢の違いということを強調しているが、イギリスではロックの社会契約の後継者が出てきていないという歴史的事実の指摘は行っている。

正義は「共通の利益の感覚」として理解されている「コンヴェンション」にもとづくものである、と彼が言っているときの意味に注目してください。正義はコンヴェンションにもとづいていると言うとき彼が何を考えているのかを説明するために、一艘の船を漕いでいる二人の男の例を利用し、この二人はそれぞれ、約束や契約の必要なしに、自らのオールを漕ぐうえで互いを頼っていると述べています。
(講義Ⅱ 効用、正義、そして賢明な観察者 第二節「正義という人為的徳」p371 太字は実際は傍点)

これは『道徳原理研究』の付録三「正義に関する若干のさらに進んだ考察」からのヒュームの思想案内。思想の方向性とともに、表現の柔軟なところも伝わる。多数の人間が、同じ方向に向けてオールを共同で漕ぐのは結構難しいし問題も起こると思うが、最大の公共的効用の実現に向けて政治的主張ををすり合わせていくというのが功利主義の立場であるのだろう。

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【チェック箇所】
324, 327, 328, 339, 341, 345, 347, 348, 351, 352, 356, 358, 361, 363, 366, 371, 374, 376, 380, 381

ロールズ『政治哲学史講義Ⅰ』(原書 2007, 岩波書店 2011, 岩波現代文庫 2020 )
※サミュエル・フリーマン編, 訳:齋藤純一, 佐藤正志, 山岡龍一, 谷澤正嗣, 髙山裕二, 小田川大典

ヒューム
講義Ⅰ 「原初契約について」
 第一節 序 言
 第二節 ロックの社会契約に対するヒュームの批判
講義Ⅱ 効用、正義、そして賢明な観察者
 第一節 効用の原理についての所見
 第二節 正義という人為的徳
 第三節 賢明な観察者

 

ジョン・ロールズ
1921 - 2002
デイヴィッド・ヒューム
1711 - 1776