読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『文選 詩篇 (六)』(岩波文庫 2018)人が動けば人ごとに現われる文様

第六巻は最終巻、引き続き雑詩、雑擬と、先行作品を参照した模擬詩を中心に、さまざまな詩形と内容の詩が収録されている。雑擬は文選のなかに摸倣詩によるアンソロジーが組み込まれているような感じ。

江淹(444-505)

阮步兵 詠懷 籍

靑鳥海上
鸒斯蒿下飛
沈浮不相宜
羽翼各有歸
飄颻可終年
沆瀁安是非
朝雲乘變化
光耀世所希
精衛銜木石
誰能測幽微

 

阮歩兵 懷いを詠ず 籍

青鳥(せいちょう) 海上に遊び
鸒斯(よし) 蒿下(こうか)に飛ぶ
沈浮(ちんぷ) 相(あ)い宜しからず
羽翼(うよく) 各おの帰する有り
飄颻(ひょうよう) 年を終(お)うべし
沆瀁(こうよう) 安くんぞ是非あらん
朝雲(ちょううん)は変化に乗じ
光耀(こうよう)は世に希なる所
精衛は木石(ぼくせき)を銜(ふく)む
誰か能く幽微を測らん

岩波文庫では読み下し文は総ルビ

 

【意訳】
大きな鳥、小さな鳥、高く飛ぶもの、低く飛ぶもの、漂い飛ぶもの、風を切り裂くもの、ありのままに飛び、どれがいいかということは言えない。どんな思いをもっているか想い測ることもできはしない。

 

【感想】
岩波文庫版文選詩篇第六巻には文選序文も掲載されていて、そちらの解説で訳者が「天に日・月・星の文様があるごとく、人にも「文」がなければならない」(p440)と書いてあるのが怖かった。人としての文様は、薄くても何かしら浮き出てしまうに違いない。良し悪しはないといわれても、書名『文選』にも現れているように、選びの対象になっているのもまた事実。事実の両側面を感じながら、飛べる飛び方で飛ぶほかはない。

 

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【付箋箇所】
蘆諶 時興
陶淵明 詠貧士詩
謝朓 観朝雨
陸機 擬青青陵上柏
謝霊運 擬魏太子鄴中集詩 王粲
江淹 阮步兵 詠懷 籍
江淹 謝僕射 遊覧 混


訳注
川合康三
富永一登
釜谷武志
和田英信
浅見洋二
緑川英樹