読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

杉本博司『苔のむすまで』(新潮社 2005)荒ぶる魂の沈思黙考

写真家であり現代美術作家である杉本博司の第一著作。固定したカメラで長時間露光した作品や模造品の写真作品を作成してきた作家のコンセプト部分がうかがえる一冊。写真図版も多く含まれているので杉本博司入門にもなる。

私が写真という装置を使って示そうとしてきたものは、人間の記憶の古層である。それが個人の記憶であれ、ひとつの文明の記憶であれ、人類全体の記憶であれ、時間を遡って我々はどこから来たのか、どのようにして生まれたのか思い出したいのである。
(「能 時間の様式」p46 )

美術を語りながら、それが生まれた歴史的背景にも鋭い眼差しが及んでいる。人類誕生や神話の世界から現代まで、すこし隠れて見えにくくなっている歴史的なものを、あざやかに切り出して、見直してみるように促す。うつろいやすく薄情な関心のカーソルをいっとき意識的にとどめてみるために、美術品と文章でこころを調える場を設けてくれている。

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目次:
人にはどれだけの土地がいるか
愛の起源
地霊の果て
能 時間の様式
護王神社再建 APPROPRIATE PROPORTION
京の今様
塔の昔の話
不埒王の生涯
虚ろな像
骨の薫り
風前の灯
異邦人の眼
大ガラスが与えられたとせよ
末法再来
さらしな日記
苔のむすまで
あとがき

杉本博司
1948 -