読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

平田オリザ『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書 2016)下り坂の世で「寂しさと向き合う」

語り口は穏やかだが、内容はかなりシビアな状況論。寛容な精神が重要と言っている一方で、付加価値を生みだせる人材を育てていかなければ生き延びるのは困難になってきているという主張が目を引く。成長が当たり前だった時代が過ぎ、停滞から衰退に向かう状況のなか、下り坂を転げ落ちてしまわないようにするには現状をしっかり見極め踏ん張らなければいけないが、そこでより魅力的なコミュニティを創造するべくコミュニケーションをとり行動を起こさないと所属集団の転落の危機は大きく高まる。何もしなければジリ貧、何かして失敗すればリカバリが難しい。本書は地方自治体や学校法人などの組織運営での成功例を多く取り上げている為、個人の行動よりも組織のマネジメントの領域で参考になりそうな一冊だ。「競争と排除の論理から抜け出し、寛容と包摂の社会へ」。直接語られているわけではないが、資源や選択肢のない切羽詰まった状況になってしまうと、周りを見る余裕などなくなるから、現実を受容しながらも自己決定の自由はいつでも持てるようにしておこう(そして他者の自己決定の自由も尊重できるようにしよう)という、踏みとどまるべきライン設定は、組織だけでなく個人としても覚えておいた方がよい気がした。踏ん張りどころに気づけるようになるかもしれない。未来に向けて明るさは細っていくと覚悟した方がよいので、たとえ踏ん張りがきいたとしても、寂しい状況がなくなるわけではないことをまずは浸透させたいのだなと感じさせた著作。

 

『下り坂をそろそろと下る』(平田 オリザ):講談社現代新書|講談社BOOK倶楽部

 

【付箋箇所】
14, 43, 50, 119, 150, 158, 160, 162, 193, 208, 220, 224, 235

目次:
序 章 下り坂をそろそろと下る
第一章 小さな島の挑戦――瀬戸内・小豆島
第二章 コウノトリの郷――但馬・豊岡
第三章 学びの広場を創る――讃岐・善通寺
第四章 復興への道――東北・女川、双葉
第五章 寂しさと向き合う――東アジア・ソウル、北京
終 章 寛容と包摂の社会へ

平田オリザ
1962 -