読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

金春禅竹(1405-1471)『歌舞髄脳記』ノート 04. 「第四 雑体」

禅竹の生のことばとともに歌論ベースの能楽論を読みすすめる。引用される歌の匂いだけでも景色がすこし変わりはじめる。

ただ、心深く、姿幽玄にして、詞卑しからざらんを、上果の位とす。故に、古歌幷に詩を少々苦吟して、其心を曲体の骨味とし、風姿の品を分ちて、上類の能体を選ぶ。

 04.「第四 雑体」で取りあげられた曲目とその九位の位と取り合わせられた歌

第四 雑体
  是等かゝり、皆此心なるべし   
 藤原定家  都べはなべて錦となりにけり桜を折らぬ人しなければ  
     
丹後物狂 正花風 秀逸のかゝり (作者:世阿弥)  
 源通光:武蔵野はゆけども秋の果てぞなきいかなる風の末に吹くらむ  
  しほるゝ処、哀れなる感あり。   
 西園寺公経:旅衣たつ暁の別れよりしほれしはてや宮城野の露  
     
芦刈 浅文風 有心体 (作者:世阿弥)  
 西行法師:津の国の難波の春は夢なれや葦の枯葉に風渡るなり  
     
錦木 広精風 遠白体 (作者:世阿弥)  
 慈円:岡の辺の里の主をたづぬれば人は答へず山颪の風  
     
邯鄲 妙花風 高山のごとし (作者:観世元雅 or 金春禅竹)  
 安法法師:世をそむく山の南の松風に苔の衣や夜寒なるらん  
     
鵜飼 正花風 写古体 (作者:榎並左衛門五郎 改作:世阿弥)  
 大江匡房:秋来れば朝けの風の手を寒み山田のひたに任せてぞ引(ひく)  
   ※秋来れば朝けの風の手を寒み山田の引板をまかせてぞ聞く(新古今和歌集)  
     
通小町 妙花風 高山体 (作者:観阿弥改作)  
 宜秋門院丹後:吹はらふ嵐の後の高嶺より木葉(このは)曇らで月や出(いづ)らむ  
     
船橋 正花風 至極体 (作者:世阿弥改作)  
 藤原定家:嵯峨の山千代の古道跡とめてまた露分くる望月の駒  
     
恋重荷 正花風 花麗体 (作者:世阿弥)  
 源俊頼:うづら鳴く真野の入江の浜風に尾花波寄る秋の夕暮  
     
太山府君 寵深花風 幽玄体 (作者:世阿弥)  
 藤原定家:こきまずる柳の糸も結ほほれ乱れて匂ふ花桜かな  
     
自然居士 浅文風 事可然(ことしかるべき)かゝり (作者:観阿弥)  
 藤原実房:急がれぬ年の暮れこそあはれなれ昔はよそに聞きし春かは  
 在原業平伊勢物語):寝ぬる夜の夢をはかなみまどろめば いやはかなにも成(なり)まさるかな  
    
俊寛僧都 閑花風 不明体 (作者:観世元雅?)  
 慈円:ながむればわが山の端に雪白し都の人よ哀(あはれ)とも見よ  
     
歌占 強細風 古(いにしへ)を写すかゝり (作者:観世元雅)  
 伊勢(伊勢物語):君来むと言ひし夜ごとに過(すぎ)ぬれば頼まぬ物の恋ひつつぞ経(ふ)る  
 源実朝:箱根路を我(わが)越えくれば伊豆の海や 沖の小島に浪の寄る見ゆ  
     
王昭君 閑花風 麗体 (作者:不詳)  
 藤原俊成:仙人の折る袖にほふ菊の露うちはらふにも千代は経ぬべし  
   ※山人(やまびと)の折る袖にほふ菊の露うちはらふにも千代は経ぬべし  
 藤原定家:道のべの野原の柳萌えにけりあはれ昔の煙くらべや  
   ※道のべの野原の柳したもえぬあはれ嘆きの煙くらべにある  
     
蟻通 妙花風 拉鬼体 (作者:世阿弥)  
 藤原良経:ぬれてほす玉ぐしの葉の露霜に天照る光幾世経ぬらん  
     
塩竈(融) 寵深花風 強力体 (作者:世阿弥)  
 聖武天皇:妹に恋和歌の松原見渡せば塩干の潟にたづ鳴き渡る  
   ※妹に恋ひ吾(あが)の松原見渡せば潮干の潟に鶴(たづ)鳴き渡る  
     

「第四 雑体」はここまで。

 

金春禅竹世阿弥娘婿)
1405 - 1471
世阿弥
1363 - 1443
観世元雅(世阿弥長男)
1394? - 1432