読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

宇野重規『トクヴィル 平等と不平等の理論家』( 講談社選書メチエ 2007, 講談社学術文庫 2019 )社会制度とともに変容する想像力と象徴秩序

アメリカの民主主義』をメインに考察されるトクヴィルの思想。封建社会が崩れて民主主義が台頭し、抑圧されてきた庶民層が平等に考え発言することができるようになると、想像における自己像と現実の自己のギャップに苦しむことも可能になり、身を滅ぼしてしまうケースもでてくるということを暗に教えてくれる一冊。ロマンスのパロディとしてのリアリズムの泣き笑いの聖性が顔を覗かせもする世界。「ボヴァリー夫人は私だ」というフロベールの痙攣のようなことばも生み出してしまう平等ベースの想像世界。溶けだすし、浸食するし、浸食されるし、とても危ういが、それが自由とも捉えうる。
宇野重規の引用からトクヴィルの『アメリカの民主主義』の孫引きがこちら。

平等の時代には、人はその類似性のゆえに、互いに他の誰かに信頼を寄せることはできない。ところが、この同じ類似性が、彼らをして公衆の判断をほとんど無制約に信頼させる。なぜなら彼らには、誰もが同じような知力を持っているのに、最大多数の側に真理がないとは到底みえないからである。
(第二章 平等と不平等の理論家 「多数の圧政」p85 )

よかれと思って行動しても、どこか変な方向に展開してしまう近代世界。その近代のはじまりのアメリカの状況を分析し、グローバル化した今現在の世界の状況を知るためにも参考になるような世界と人間の構造を描出してくれている。重量感は左程ないので、厳密に行きたい向きには、トクヴィルの著作本編へのすぐれた誘いとなっている。古典としてのトクヴィルを手に取るきっかけとしては十分な摩擦力。もっと抵抗感のある分厚い著作もあっていいと思うが、600ページの本は日本であまり求められていないので、もの足りない向きは、トクヴィル本人の著作に向き合うのがベスト。

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目次:
第一章 青年トクヴィルアメリカに旅立つ
第二章 平等と不平等の理論家
第三章 トクヴィルの見たアメリ
第四章 「デモクラシー」の自己変革能力
結び トクヴィルの今日的意義
補章 二十一世紀においてトクヴィルを読むために

アレクシ・ド・トクヴィル
1805 - 1859
宇野重規
1967 -