読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

小林瑞恵『アール・ブリュット 湧き上がる衝動の芸術』( 大和書房 2020 )安心を得るための行為の成果

「生(き)の芸術」と訳されている「アール・ブリュット」。正式な美術教育を受けていない製作者たちの美術作品であり、「アウトサイダー・アート」とよばれる場合もある。日本においては精神の病を抱えている人たち、知的障害を持つ人たちの作品を指すことが多い。水玉アートで非常に有名で人気も高い草間彌生は、統合失調症を患いながら作品制作を行ってきているので、本書で紹介されている作家たちと親和性があるともいえるが、美術学校に通い、はじめからアートシーンに身を置いて活動しているため、わざわざ「アール・ブリュット」では括られず、単に現代アート作家と呼ばれる。

作品には、幻覚や不安感に苛まれることが多い人たちに治療の一環として絵画や立体などの造形作品制作を勧めるなかで生まれたものと、純粋に衝動から生まれたものの二通りがある。いずれも過剰なものをかろうじてバランスさせているところに特徴があり、見るものに見入らせる力がある。驚異的な緻密さや増殖のとまらない反復が世間的日常一般を超えている。また一方では、商品化の戦略が見えないところが素朴であり、どこか物足りなさも感じさせる。作品制作者たちにとっては作品を作る時間が純粋に安心を得るためのものであり享楽の時間でもあるので、商品としての価値などについては本人たちは無関心なのだろう。無心の享楽の時間から出てきた造形。記号を生み出すひとつの回路のようなものの現われ。

本書には40名の作家の270点を超える作品が収められている。治療にもなる美術。文字で同じことを期待するのはなかなか難しいなと思いながら鑑賞させていただいた。

www.daiwashobo.co.jp

 

小林瑞恵
1979 -