読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

四月は残酷な月 トマス・スターンズ・エリオット『荒地 THE WASTE LAND』( 1922 )冒頭四行を吉田健一訳で (ラフマニノフのピアノ組曲第一番「幻想的絵画」を流しながら)

四月に入ってからの引越準備で吉田健一の訳詩集『葡萄酒の色』が出てきたので暫し再読。新しい住まいに移動させる必要があるかないかという視点から所有していた本のうちざっくり1000冊くらいは捨てただろうか。覗きなおしながら捨てていたためちょっとした喪失感と虚脱感がここしばらく生活の芯を流れている。

April is the cruellest month, breeding
Lilacs out of the dead land, mixing
Memory and desire, stirring
Dull roots with spring rain.

吉田健一

四月は残酷な月で、死んだ土地から
リラの花を咲かせ、記憶と欲望を
混ぜこぜにし、鈍つた根を
春雨で生き返らせる。

過去に仕込んでいた本の種は新たな風を通してあげると芽も根も少しは顔を出してくれるのだが、死んだ土地ではすぐに萎れ腐れてしまう傾向にある。

死んだ土地を清めるのに適していたのか、四月中はラフマニノフのピアノ組曲第一番「幻想的絵画」(1893)をずっと流して聴いていた。演奏はマルタ・アルゲリッチとリーリャ・ジルベルシュテイン。楽曲の特に第4楽章「復活祭」はエピグラフにしているアレクセイ・ホミャコーフの詩と相俟って浄化力・清浄感が高い。ありがたく繰り返し聴いている。

強大な鐘の音が大地を越えて鳴り、
大気のすべては嘆き、おののき、苦しむ。
美音の銀色の雷鳴は、
聖なる勝利の知らせを告げる。

(日本版ウィキペディアより:組曲第1番 (ラフマニノフ) - Wikipedia

 

復活祭はイエス・キリストが復活したことを記念した祭り、イースターということで、異教徒や無神論者には関係ないといえば関係ないのだが、十字架に貼付けにされた後の復活の場面イメージのBGMとしてはまことにふさわしい。高音と低音を中心に意志ある音が四っつの手によって奏でられていく時間は、未知の領域に踏み出す場面には力になってくれるとともに、「本当に大丈夫なのか?それでよいのか?」と問いかける強さもある。強さに押しつぶされない範囲で決断して、わりと長期にわたる取捨選択の時を受け入れつつ過ごしている。もう少し、あと二週間くらいはこの状態が続く。

 

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トマス・スターンズ・エリオット
1888 - 1965
吉田健一
1912 - 1977
セルゲイ・ラフマニノフ
1873 - 1943
マルタ・アルゲリッチ
1941 -
リーリャ・ジルベルシュテイン
1965 -