読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

藤原定家『拾遺愚草』未収録作を読む モノが整いきらない現実の粗雑さも詠いきる歌の世界

藤原定家の私歌集『拾遺愚草』正篇2791首に収まらなかった、定家の詩歌作品1840首を読み継ぐ。

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全歌集下巻としてまとめられた本書、自選私家集『拾遺愚草』に収まらなかったところの歌の全体的傾向としての印象は、物質的な抵抗感、純化されていない素材感がどことなく残る荒さの魅力、詩的言語が喚起する情緒の中で解消しきれずに残る生の存在のザラツキ感が強く残る、後を引くというところ。それほど強くはないのだが、『拾遺愚草』所収の作品に比べれば、相対的に荒さの魅力、悔恨の情のざらついた魅力が際立っているように思える。

3720
 なき物と思すててし身のはてに世の憂きことぞ猶残りける
3901
 風はみなよもの木末をつたひ来てくらき声にも色ぞ見えける

なにもないと思っているなかで、どうしても捨てきれないかすかなものごとの存在感に感応してしまうどうしようもない感性と、その感性を迎えるに足る表現の能力。外と内との強度バランスが拮抗していれば、美的静寂の世界を感覚することができる。

 

藤原定家は日本の文芸界がもつことのできた、美的均衡の代表的実践例のひとつ。

本書と前作(『拾遺愚草』)併せよむことで、日本文芸における存在の大きさを確認することができる。自作だけでなく選者や批評家としての存在の大きさは、「百人一首」などの選歌工程などをたどることで、また別の経路で検討確認することが可能だ。

 

【付箋歌番号】
2845, 3229, 3266, 3296, 3601, 3648, 3665, 3677, 3720, 3727, 3821, 3829, 3901, 3952, 3968, 4018, 4042, 4095

 

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藤原定家
1162 - 1241
久保田淳
1933 -