カッシーラー生前最後の著作(『国家の神話』は没後出版)。広範囲な文化現象についてこれまでの自身の思索を総括していくように綴られた一冊。人間をanimal symbolicum(シンボルを操る動物)と定義して、シンボル的宇宙を生みそこに生きる人間の姿を描きあげている。亡命先のアメリカで母国語ではない英語で書かれたこともあってか、重厚な印象はない。また、ジェームズ・ウィリアムズやジョン・デューイなどプラグマティズムの思想家たちへの言及が多いようなところも、他の著作とは少し印象が異なる。本格的な議論はほかの著作にあたったほうがよいかもしれないが、カッシーラーの思索の魅力にわりとすんなり入っていけるというところや、哲学の思考の対象全般に目が行き届いているというところは、本書の利点だとおもう。
自然は尽くすことのできないものである。――それはつねに、我々のために、新たな、思いがけない問題を提出する。我々は事実を予期することはできない。しかし、我々はシンボル的な思考の力によって、事実の知的解釈を行なうための準備をすることができる。
(第十一章「科学」p460 )
人災の側面もおおいにあるが二十一世紀になっても「新たな、思いがけない問題」がどんどん出てきている。「事実の知的解釈を行なうための準備」はなかなかできていないところが多いが、「シンボル的な思考の力」を駆使して、漸次対処していくようにしていくしかないのだろう。
【付箋箇所】
37, 44, 50, 64, 73, 85,87, 104, 119, 137, 138, 166, 223, 235, 258, 272, 282, 303, 304, 308, 376, 388, 423, 450, 460, 479, 486
目次:
第一部 人間とは何か
第一章 人間の、自己自身の認識における危機
第二章 人間性への鍵―シンボル(象徴)
第三章 動物的反応から人間の反応へ
第四章 空間および時間の人間的世界
第五章 事実と理想
第二部 人間と文化
第六章 人間文化による人間の定義
第七章 神話と宗教
第八章 言語
第九章 芸術
第十章 歴史
第十一章 科学
第十二章 要約と結論
エルンスト・カッシーラー
1874 - 1945
宮城音弥
1908 - 2005
参考: