読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

【20世紀のチリの詩人 パブロ・ネルーダ(1904-1973)2冊】『大いなる歌』(原書 1950, 現代企画室 2018)、『ノーベル賞文学全集 25』(主婦の友社 1974)

スケールが大きすぎて読み終わった後に少し萎えたくらい圧倒的な力量の詩人。40代での代表作『大いなる歌』ではアメリカの南北大陸、国でいえばアメリカからチリ、アルゼンチン、さらに南極まで歌ってしまう大きさ。神話の時代から現代の工場や鉱山での搾取形態まで時間感覚も広い。到底かなうものではないし、マネすらできないか。そう思うとちょっとシュンとする。時代や地域的事情もあって、スターリン崇拝の詩句なども紛れ込んでいて、全面的に受容肯定するわけにはいかないものの、まぎれもない一級詩人であることは認めるほかない。

巻頭歌「アメリカ大陸よ(1400年)」より

そしてベネズエラの暗く平穏な
断崖に潜む巣穴を通り
私は探し求めたわが父を
闇と銅とでつくられた若き戦士を
あるいはあなた 婚姻の植物 不屈の長髪
母なるカイマンワニ 金属の声の鳩を

『大いなる歌』を読んで得た収穫は、ネルーダという詩人の存在をもう忘れないであろうということと、個人全訳をした松本健二という人の存在に触れたこと。解説文から感じ取れる感覚がどことなく自分に似ているような気がして、この人を追って行けばまずまず満足度の高い作品に出会えるのではないかという期待が持てた。ありがたいことだ。

悲しむときは悲しみ、喜ぶときは喜び、命を賭けた戦いを謳うときは勇ましく、怒るときは執拗に怒り続け、自らが正しいと思うことを真摯に主張し続ける。そのストレートな(時にははた迷惑なまでの)わかりやすさに発生する一種の磁場が、この詩集最大の魅力となっている。
(「訳者あとがき」より)

『大いなる歌』を含むロス・クラシコスのシリーズに別の詩人の翻訳もあるようなのでそちらものぞいてみようと思う。

ノーベル賞文学全集』の収録作品は『大いなる歌』にくらべれば小さく哀感と繊細さが感じられて親しみやすいものが多い。特に各種のオード(頌歌)に読み返したくなるものが多い。

歯の欠け落ちた
夜半の
空の
たった一本の奥歯のように
摩滅した
月よ
(『基本的なオード』「海の月へのオード」部分)

パブロ・ネルーダは1971年のノーベル文学賞受賞者でもある。

 

『大いなる歌』

現代企画室 パブロ・ネルーダ『大いなる歌』 

【付箋箇所】
19, 133, 218, 245, 339, 415, 561

目次:
1章 地の灯り
2章 マチュピチュの高み
3章 征服者たち
4章 解放者たち
5章 裏切られた砂
6章 アメリカ大陸よ その名を無駄に呼び出しはしない
7章 チリの大いなる歌
8章 その地の名はフアン
9章 樵よ目覚めよ
10章 逃亡者
11章 プニタキの花々
12章 歌の川
13章 闇に沈む祖国へ宛てた信念の賛歌
14章 大洋
15章 私とは


ノーベル賞文学全集 25』
詩集 パブロ・ネルーダ

二十の愛の詩と一つの絶望の歌(全21篇) 荒井正道
地上の住家(抄6篇) 荒井正道
心の中のスペイン(抄1篇) 篠沢眞理訳
大いなる歌(抄17篇) 篠沢眞理訳
基本的なオード(抄15篇) 高見英一訳
気紛れ詩集(抄19篇) 鼓直
航海と帰還(抄10編) 鼓直
愛のソネット百編(抄11篇) 鼓直
祭儀の歌(抄3篇) 鼓直
チリの石(抄4篇) 鼓直
充ちたる力(抄4篇) 鼓直
黒い鳥(イズラ・ネグラ)の覚え書(全17篇) 牛島信明


パブロ・ネルーダ
1904 - 1973
松本健二
1968 -