読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

イマヌエル・カント『美と崇高との感情性に関する観察』(原書 1764, 岩波文庫 1948)

批判哲学以前のカントの小品。観察、分類、列挙からなるエッセイ風の砕けた文章で、『判断力批判』の崇高論のようなものを期待すると肩透かしをくらう。

男性が崇高で、女性が美。

イタリア、フランスが美で、イギリス、スペイン、ドイツが崇高。

翻訳ははじめカント著作集に入れるために昭和十三年(1938)になされたもので岩波文庫版でも旧字旧仮名。

最後に程度こそ異なれ、名誉心があらゆる人の心のうちにひろがつてゐる。此名誉心のあることが必然的に、人類全体に嘆賞を唆る美を与へることになるのである。蓋し、それが規則となつてこれに従属させる限り、名誉心は愚かな謬見ではあるが、同伴の衝動としては極めてすぐれたものである。
(第二章「一般人類に於ける崇高と美との性状について」 p37 )

たとえば「従属」は実際は「從屬」で、旧字体の尖りながら繁茂しているような漢字に触れていると、新字を読むときとは微妙に違った感覚がわいてくる。漢字の禍々しさのようなものが目にも感情にも抵抗感を残すようだ。カントの作品に倣って言わせていただくなら

漢字は崇高で、ひらがなは美

といった感じ。

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目次:
第一章 崇高と美との感情性の別々の対象について
第二章 一般人類に於ける崇高と美との性状について
第三章 両性相互関係に於ける崇高と美との区別について
第四章 崇高と美との異なる感情性基づく限りに於ての国民性について

 

イマヌエル・カント
1724 - 1804
上野直昭
1882 - 1973