読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

訳註 沓掛良彦『ホメーロスの諸神讚歌』(平凡社 2009)

古典注入。岩波文庫に逸身喜一郎+片山英男訳で「四つのギリシャ神話 『ホメーロス讃歌』より」(1985)があるが、こちらは全訳。全33篇の翻訳と訳注、解題から構成される。本日読んだのは本編と解題。本編だけからでは読み取ることができない詩文に込められた意味を解題 で教えてもらえるのが貴重。「ヘルメース讃歌」でのアポローンとヘルメースの関係性についての読み解きなどはその最たるもの。

ヘルメースによって発明された竪琴がアポローンに譲られたということは、前者に体現される、羊飼いなどのような田舎の低い階層の間に発生した音楽が、後者に体現される貴族的な階層に吸収されていった過程を、象徴的に表わしているものと考えることもできよう。この讚歌の作者である詩人が、そのような意図を抱いていたかどうかは別としても、結果としてはそう解釈し得る。
(「ヘルメース讚歌」解題 p229)

また岩波文庫にも収められているデーメーテールアポローン、ヘルメース、アフロディーテー以外にも楽しめる讃歌が多いのも良い。ディオニューソス、パーン、ヘスティア―など。炉の女神であるヘスティア―への短い讃歌については、炉を中心に活動していた当時の状況の中で、家を新しく建てる際に主神ゼウスとともに炉の女神ヘスティア―を招来するためにうたわれた、日本でいえば祝詞のような性格をもっていると指摘しているところも含めて興味深い。

また時間をおいて、今度は豊富な訳注にも目を通しながらギリシアの神々の世界に馴染んでいきたい。

 

【訳の比較】

岩波文庫の逸身喜一郎+片山英男訳:

ヘルメースは、死すべき人間であれ不死なる神々であれ、誰ともつきあう神である。とはいえ、益をもたらすのは稀なこと、夜のしじまの果てるまで、死すべき人間の一族をもてあそぶのが常である。

(「ヘルメースへの讃歌」p152) 

 

沓掛良彦訳:

ヘルメースはあらゆる人間や神々と交わりをもつ神。
人を益すること少なく、闇垂れこめる夜の続くかぎり、
果てしなく人間の族(うから)を騙し続ける神である。
(「ヘルメース讚歌」p202)

 

www.heibonsha.co.jp

【付箋箇所】
6, 13, 20, 97, 223, 225, 229, 250, 359, 361, 386


沓掛良彦
1941 -

参考:

uho360.hatenablog.com