読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

藤沢令夫『プラトンの哲学』(岩波新書 1998)

プラトンの著作自体を読みたくさせるすぐれた案内書。とりわけ『テアイテトス』『国家』『パイドロス』『ティマイオス』『法律』などで語りの対象となる魂=プシュケーやイデアに関する案内解説にキレがある。特に第五章[Ⅴ「汝自身を引き戻せ」―反省と基礎固め]とそれにつづく第六章[Ⅵ「美しく善き宇宙」―コスモロジーに成果の集成を見る]は、「分有」と「似像」の差異を語りつつ、「イデア」-「似像」の関係性を説いていて興味深い。

『テアイテトス』で達成された「このもの」(x=個物、物)と<物>的実体の抹消のさらなる仕上げと<場>という要因の導入は、疑いもなく、知覚される事象とイデアとの関係を、「x」(このもの、個物)を主語に立てる「分有」用語によって記述することに対する最終的な正式の拒否宣言としての意味をもつだろうし、同時にまた、それに代わる「似像」用語による「x」抜きの記述方式の使用に基礎を提供するものである。
(Ⅵ「美しく善き宇宙」―コスモロジーに成果の集成を見る 「場の描写」の記述方式 p194 )

ここに出てくる「場」は『ティマイオス』で語られる「コーラ」のこと。引用箇所で語られるような知覚‐認識‐記述の関係性は、イデアにあたる部分を変換したり消却したりすれば、たとえば龍樹の『中論』においての空観やフッサール現象学など、ほかの思想家の仕事を連想させてくれてたいへん刺激的。

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目次:
Ⅰ 序章 「海神グラウコスのように」―本来の姿の再生を
Ⅱ 「眩暈」―生の選び
Ⅲ「魂をもつ生きた言葉」―プラトン哲学の基層としてのソクラテス
Ⅳ「美しき邁進」―イデア論とプシューケー論
Ⅴ「汝自身を引き戻せ」―反省と基礎固め
Ⅵ「美しく善き宇宙」―コスモロジーに成果の集成を見る
Ⅶ「果てしなき闘い」―現代の状況の中で
あとがき


藤沢令夫
1925 - 2004
プラトン
B.C.427 - B.C.347