いまから四年後(出版時からは七年後)、2025年が分水嶺になるよ、ということから人工知能と日本の社会を論じた一冊。
なぜ2025年かというと、日本の激烈な少子高齢化のなかで、きわめて厚い層を占める団塊の世代(1947年~1949年の3年間に生まれた世代)が、75歳以上の後期高齢者層に入ってくる区切りの年だからということらしい。
長生きは目出度いことであったはずだが、近年では医療の発達もあって、皆が長寿の社会、生産なき世代が拡大する世界になってしまい、単純に長寿を喜んでいい世界とは異なるフェーズに入っている。だからといって、人口動態に変化を齎すようなことはほぼ何も生み出せていないし、財政の先送りを抑止する規範的なコンセンサスも取れていない。そのようななか、危うい(詐術にも似た)舵取りをとるほかない情勢が長くつづいているような印象を受ける。
個人的には借金(国債)は嫌いだが、それなしでやっていけるような状態にないことも分るし、すべてが即自の現金決済で済む世界でないことも重々承知しているつもりだが、1970年代後半の小学生のとき以来、国家の負債を公共CMなどで告知され危機感を植え付けられた世代にとっては、次世代に単純に(あるいはより悪い状態で)引き継いでもらうのは、非常に心痛むところである。
直近の問題解決のために、単純に未来からの前借りで対応していいのか、次世代の人びとにも日々触れて生活を送るなかでは、どこか考えておくべきことであると思いながら過ごしている。できることは現世代で解決して次世代に託すほうがよい。
本書は、現時点で出来るかもしれないこと、コンピュータとネットワークを利用して人間活動をカバーし代替増強できるかもしれない領野を拡げていくことを目指して、最先端にいる研究者たちが吟味検証し方向性を指ししめそうと努力している有益な一冊。
バラ色の未来は幻想にすぎないとしても、次善のありうべき世界を垣間見させてくれようとしている真摯な書物であると思う。
急速に発展した人工知能が得意としている対象は、正解・不正解がある「知識」に該当するようなものである。正解・不正解があるものは、学習すれば獲得できるが、「感性」には正解・不正解がない。
(第5章 人工知能における感性 「感性とは? 人工知能で扱うことの難しさ」 p140 )
感性はもちろんだが、知識にとっても正解・不正解が決められないことの方が多いのが、現代社会の難しさや息苦しさなのではないかと思ったりもするが、進むにせよ抑制するにせよ検討しながら行動していくほかはない。
【付箋箇所】
3, 25, 30, 40, 45, 55, 69, 74, 91, 107, 127, 130, 140, 145, 158, 161, 179, 185, 190, 199, 202, 209, 217, 218, 227
目次:
1章 2025年が やって来る!
2章 ロボットと人工知能
3章 IoTとは 時間・空間・人―物間をつなげることの効果とインパクト
4章 自然言語処理と人工知能
5章 人工知能における感性
6章 社会に浸透する汎用人工知能
あとがき
著者:
栗原聡
長井隆行
小泉憲裕
内海彰
坂本真樹
久野美和子
参考: