読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

藤原定家撰『新勅撰和歌集』(1235年完成 久曾神昇+樋口芳麻呂校訂 岩波文庫 1961) 病める華々の消えることのない妖しい形姿と芳香

第9番目の勅撰和歌集武家社会への移行を決定づけた承久の乱の後の世に、後堀河天皇の命を受け、70歳の重鎮たる定家が時代の推移を踏まえながら単撰した撰集。老年を迎えてからの定家の平淡優艶を好む嗜好性を反映した撰集といわれ、そういわれるのも宜なるかなという気もするのだが、頂点を極めた後の、和歌と公卿の世界の黄昏や没落を見つめる感性がつよく支配している撰歌であるとも感じた。とくに終わり四分の一を占める雑歌5巻(第十六巻から第二十巻まで)にその色合いが強い。厳しいまでの憂いを込めた歌が、時代を超えていまも心に刺さる。雑歌二の巻末五歌などは、何かただごとではない寒々とした一群の心象風景を形づくっている。

1200 はるやくるはなやさくともしらざりきたにのそこなるむもれ木の身は 和泉式部
1201 はるやいにしあきやはくらんおぼつかなかげのくち木とよをすぐす身は 貫之
1202 かずならばはるをしらましみ山木のふかくやたにゝむもれはてなん 後京極摂政前太政大臣
1203 くもりなきほしのひかりをあふぎてもあやまたむ身を猶ぞうたがふ 後京極摂政前太政大臣
1204 やまはさけうみはあせなん世なりともきみにふたごゝろわがあらめやも 鎌倉右大臣

病める華々の消えることのない妖しい形姿と芳香。

歌人でいえば、式子内親王、後京極摂政前太政大臣藤原良経、鎌倉右大臣源実朝が本集では突出している。悲しみのなか氷りつくこころのするどい輝き。

[式子内親王]
0345 あきこそあれ人はたづねぬ松の戸をいくへもとぢよつたのもみぢば
0397 ふきむすぶたきは氷にとぢはてゝまつにぞかぜのこゑもおしまぬ

[後京極摂政前太政大臣 藤原良経]
0607 ゆめのよに月日はかなくあけくれてまたはえがたき身をいかにせん
1148 さてもさはすまばすむべき世中にひとのこゝろににごりはてぬる

[鎌倉右大臣 源実朝]
0273 ふるさとのもとあらのこ荻いたづらに見る人なしにさきかちるらん
1076 あさぢはらぬしなきやどの庭のおもにあはれいく世の月かすみけん

暮れゆく側の主人公たちの悲劇的かつ英雄的な絶唱

 

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【付箋歌】
41, 98, 99, 113, 226, 237, 277, 293, 338, 345, 376, 397, 442, 577, 607, 660, 661, 717, 849, 1067, 1076, 1086, 1128, 1148, 1179, 1200, 1201, 1203, 1204, 1231, 1296, 1333, 1343, 1373

藤原定家
1162 - 1241


参考:

uho360.hatenablog.com

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