谷川俊太郎の写真60葉と詩作品90篇。
80歳の時の一冊。
写真は50年代、60年代のもの。東京タワーの建設中の風景を含むモノクロームの写真。
詩は、10代後半のものから書下ろしを含む刊行当時のものまでの60数年からのピックアップ。
バラードとうたわれているけれども、話が、話題が、読む意識を引っ張ってくれるわけではない。
それなのに、
ほとんど何もないのに、
最終的には300ページ近い言葉のパフォーマンスに、身を委ねていることが、可能になっている。
おそるべき軽さ。
なにもないと思うところのかたわらで、
なにものもなくさず、
そして消えずにある、
それぞれの、
「今ここ」の、
逃れられぬ力動のなかにある
姿が、
苦しさの層ではなく、
苦しさを辛うじて逃れた、
なにかが残って
微かに過去に
接続しようと
触手を伸ばしている。
巻頭エピグラフは1971年刊行『うつむく青年』収録「東京バラード」から
東京では 空は
しっかり目をつむっていなければ 見えない東京では 夢は
しっかりと目をあいていなければ 見えない
なんにも見えないなか
かろうじて
部屋の中で
日本語の詩を
漢字かな交じりの詩を
読んでいる
今日このごろ
谷川俊太郎
1931 -
参考: