娘の眼に映った作家堀田善衞の仕事と日常。
田植えをするように夜中にお気に入りの万年筆でトントンと原稿用紙を埋めていく堀田善衞が印象的。
一日五枚、2000字を積みあげて、堅牢であるが陽当たりも風通しもよい質の高い大作を次々に生み出していった精神の野太さと繊細さが、温かくしかも力強く伝わってくる。
夏。
暑い日が続くと、母の運転する車に、本や資料、書斎道具一式を載せて、蓼科の山荘に移動します。初秋まで、ここで仕事をします。どこへも行きません。
「どこへも行きません」。缶詰めになっての仕事。取材や会議などで世界を渡り歩く一方、書くとき、資料を読み込み勉強するときは、驚くほどの時間をかけて作品と作品の中心人物に向きあっている。それは自伝的長編『若き詩人たちの肖像』でレーニンやドストエフスキー、新古今集、定家の明月記など、起きているときにはずっと部屋に籠って読んでいるときにも描かれたとおなじ光景で、書く人はなによりも読む人であるということを驚きとともに再確認させてくれる。
作家堀田善衞をサポートする著者の母であり作家のパートナーである「披露山のライオン」玲子夫人のエピソードや、同業者や編集者を大切にする堀田善衞の姿、ダンディーであり且つ心優しい作家の人柄も伝わってきて、これから読む予定の作品、『ゴヤ』や『ミシェル 城館の人』の背景を豊かにしてくれた。
2018年は堀田善衞生誕100年、没後20年の区切りの年で、堀田善衞特別展が富山で開催され、富山県高志の国文学館編『堀田善衞を読む 世界を知り抜くための羅針盤』が出版された年でもある。派手な売れ方読まれ方はしていないけれども、しっかりと読み継がれて推薦もされていることが分かって、すこし心あたたかくなった
堀田善衞
1918 - 1998
堀田百合子
1949 -
参考: