谷川俊太郎82歳で刊行された新作詩集。全27篇。
注文を受けずに書いて、未発表のまま本書にはじめて収録された作品が10篇、不詳の作品が2篇と、純粋に能動的に書かれたものが多く収められていて、そのためもあってかどことなく素っ気ないナマ感のすこし強い感触の詩作品がおおいように感じた。詩句や連や詩そのものの切りあげ方には、透き通って静かな心の状態に触れている感触がある。心は動いていながら、客観の相がより強く感じられるようなことばの選択がされているようだ。
重力が地球を隅々まで支配している以上
落下地点は大気圏を逸脱しない
その事実は事実を超えて叙情的だ
(「落下」部分)
事実を淡々と述べながら、波立つことない深い叙情をサッと掬って、なにごともないように見せている。
常温の肌触り。
フィクション性の強いもの、読者には相手を特定しがたい死者に対しての追悼の詩など、後味を強く残しそうな中身のものも、あっさりと手放しているように見える。
何となく不思議な一冊。
伝える欲から抜け出た境地から綴られたことばたちなのだろうか。
菊池信義の装丁・造本も美しい。
目次:
庭
時
ルネ
よそ者
海辺の町
挽歌
冥土の竹藪
〈終わり〉のある詩
二頁二行目から
時の名前
落下
夢と家屋
無関係について
その日
DIRGE
キャベツの疲労
記念撮影
駄々
森の言葉
無名の娘
旅の朝
極めて主観的な香港の朝
雲の懐かしさ
ガヤの村でゴータマに
河原の小石
突き当たりの部屋
ミライノコドモ
谷川俊太郎
1931 -
参考: