80歳の草野心平が詩集『玄天』で年少の詩人の追悼詩を書いていた。中桐雅夫、享年63。日の暮れる前からアルコールを飲んでいたことがうかがわれる内容で、気になって詩集を探して読んでみた。生前最後の詩集になってしまった本書『会社の人事』は、還暦を迎えるにあたって用意されたもので、50代にはいってからの7年間に作成された作品を20歳年少の長田弘が編集した詩集。62篇中61篇がソネット(14行詩)の体裁をとっている。
時代の状況に対する憤り、哀しみが詠われているのだが、時代へも時代を詠う自分自身に対しても諦念が深く染み込んでいるようで、詩の言葉には侘しさが漂っている。酒を飲み、酔いきれずに、自嘲しながら仕方なく毒を吐いているような感じ。それでもソネットという形式と40年にもなる詩作で獲得された言葉を操る技術で、詩は端正な仕立てになっている。
不安と憂鬱の時間を救えるのは、
アルコールにひたることしかないのだろうか、
そのときだけは眼のなかに薔薇が咲いているが、
瞼の裏に残るのは真っ暗なはなびらの形だけだ。
(「哀れ」部分)
おなじ酒のみとしては、はなびらの形だけでも残るだけいいじゃないですかと言いたい気もすこしは起こるのだけれど、人それぞれ違うからそれを言っても仕方ない。ほんのり淋しさに染まってしまって読み返しているうちに、今日は追悼の意味を込めて酒なしの素面でしみじみ過ごそうと決めた。
中桐雅夫
1919 - 1983
草野新平
1903 - 1988
長田弘
1939 - 2015
参考: