読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

草野心平 詩集『自問他問』(筑摩書房 1986)

1974年の『凹凸』からはじまった年次詩集第十二作。八十二歳で刊行された本書が生前最後の詩集となった。全31篇。三度の入院生活を送ったなかでのすべて新作の作品集。さすがに一歩一歩の歩みをたしかめながら進まざるをえない詩作の道ではあるが、人々への呼びかけ、犬や魚や蛙に対する語りかけ、花や樹や新芽との交流、大地や星との交歓は、深く濃くじっくりと確かになされている。淡さのなかにも持続する愛しい交流の圏域が詩のなかに出現しているところが、さすが草野心平と感心させられれる。

他人で恰度いいんですよ。いいからあんたの雑木の庭に満足しているんですよ。遠い遠い山や原つぱから移つてきて。錦木や孔雀羊歯・みんな夫夫ちがつた性格をもち・モチの木以外は争つて葉を落とすのに十一月の若芽とは宇宙延長の変なドラマ・私たちにも分らんです。
(「十一月の朴の若芽」部分 実際には漢字は旧字)

庭のホオノキの季節外れに出た若芽との仮想の会話の一部。草野心平ならではの生命現象に向けられた想像力に最後の詩集でも出会えたことはうれしいことであった。


草野心平
1903 - 1988