読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

アラン・コルバン『草のみずみずしさ 感情と自然の文化史』(原著 2018, 藤原書店 小倉孝誠+綾部麻美訳 2021 )

草づくしの200ページ。西欧、とりわけフランスの田園のもとに育まれた感性を、多くの絵画、小説、詩、書簡や博物誌や批評のなかに探り、アラン・コルバンの地の文章に多くの引用をちりばめた散文詩のような作品。とてもフランス的で日本ではあまり同系統の書籍は思い浮かばない。肉感的で長い息づかいでストレートに対象を褒め上げている。引用で取り上げられている作品自体もその傾向が強いので、なおさら甘くて健やかな解放感を盛り上げてくれている。批評的考察として同系統のアプローチをとっているジャン=ピエール・リシャールがまずは目につくのは当然として、詩人ではヴィクトル・ユゴーを芯にロンサール、ルコント・ド・リール、ラマルチーヌ、ポンジュ、ルネ・シャールジャック・レダが、小説家ではフロベール、ゾラ、ジャン・ジオノ、プルーストなどが絶妙な構成で配置されていて、ただただ感心感嘆していた。付箋を貼ったりマーキングしたりするような本ではなく、気が向いた時に好きなところを読めば心満たされるという稀有な一冊だ。

日本的美意識としては雪月花や花鳥風月ということがいわれ、草よりはだんぜん花、接触的であるよりも観照的な文芸作品が多いのに加え、批評的にも諧謔やひねりが入ることが多いので、なかなか同じような味わいのものは見当たらないし、真似をしようにもなかなかうまくいかないタイプの本だろう。

www.fujiwara-shoten-store.jp

 

目次:
序章
第 1章 草と始原の風景
第 2章 幼年時代と草――記憶
第 3章 牧場の体験
第 4章 牧草地あるいは「草の充足」
第 5章 草、一時の避難所
第 6章 小さな草の世界
第 7章 「眠りよりも穏やかな草」(ルコント・ド・リール
第 8章 干し草刈りの匂い――草の仕事とその情景
第 9章 社会的地位を示す草
第10章 「緑の草に白大理石の足が二本輝く」(ラマルチーヌ)
第11章 草、すなわち「大いなる姦淫」の場(エミール・ゾラ
第12章 「死者の草」(ラマルチーヌ)
終章

アラン・コルバン
1936 -
小倉孝誠
1956 -
綾部麻美
1982 -

 

参考:

uho360.hatenablog.com

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