読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

中央公論社 日本の絵巻2『伴大納言絵詞』(1987年刊 編集・解説 小松茂美 )

源氏物語絵巻』、『信貴山縁起絵巻』、『鳥獣人物戯画』と並ぶ四大絵巻物のひとつ。ジブリ高畑勲をうならせた群衆描写はやはり圧巻。ひとりひとり違う仕草、衣装、顔つきと表情が丁寧にしかも生き生きとした筆で造形されている。なかにはジブリのアニメーションの特徴ある脇役たちにそっくりの人物も見えて、現代の日本のアニメ産業にもしっかりと取材吸収されているのだなということがわかって面白い。

題材は、(『往生要集』の僧侶源信とは異なる)公卿左大臣源信の官職に嫉妬した大納言伴善男が、平安朝の大内裏にあっる応天門に放火した後、その責を源信に被せて失脚させようと謀ったことが露見して、流罪になるまでの『宇治拾遺物語』などにも採られた話で、燃えさかる応天門と、火事に対応する官吏、それを見ようと集まる人々の姿からはじまっている。

全三巻、実寸で縦は約31cm、よこはそれぞれ9m程度の作品で、本書ではほぼ実寸の図版で鑑賞できる。本として見開き2ページごとに切り出されている構成のため、その切り出し方によって見るものが限定され、集中してみるとことを促されるため、好奇心と期待感を持続させながら鑑賞していくことができる。私がいちばん驚いたのは、16-17ページの黒煙と振り散る火の粉だけの画面。大胆な抽象絵画マレーヴィチの「シュプレマティスム」期の作品を見たときのような衝撃があった。

編集解説の小松茂美の考証によると『伴大納言絵詞』は平安末期、1180年ころの作。

制作依頼:後白河法皇
画面制作:常盤源二光長
詞書清書:観蓮入道藤原教長

絵巻を構成する画面は、セル画のアニメーションとして今でも通用する質感と完成度があり、見ているとどこか心がざわつく。凄いものを見せられた時の落ちつきのなさが生まれている。

小松茂美
1925 - 2010
    

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