読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ノーム・チョムスキー『統辞理論の諸相 方法論序説』(原著 1965, 2015, 岩波文庫 福井直樹+辻子美保子訳 2017)

『統辞理論の諸相 方法論序説』は原著全四章のうちの研究の枠組みについて述べた第一章のみを訳出したもので、二章以降の本編はる数理論理学等を使った統辞論で専門家以外には容易には近づけないものであるらしい。第一章は記号も数式も出さずに方法論を述べたもので、言語獲得の理論を「普遍文法(Universal Grammar, UG)」という生物学にも親和的な仮説をもって説いている。「遺伝的に決定づけられた言語機能の初期状態」として「普遍文法」が人間には生得的にそなわっていて、幼児期に触れる言語に適した文法を「選択」し母語の獲得にいたるという。「選択」というと行為の主体がどこかにいるようであり、また複数の選択対象が存在しているようにも思ってしまうが、流動的な状態からの一部機能の特権化というような感じなのだろうと考える。適当すぎるのだが「普遍文法」のイメージとして私は大乗仏教でいわれる「阿頼耶識」の言語に関わる機能系のようなものを思い浮かべたりもした。

子供は、ちょうど立体的な物体を知覚しないでいたり、線や角に注目しないでいたりすることが出来ないのと同じように、提示されたデータを説明するような、ある特定の種類の変換文法を組み立てざるを得ないのであると考えるのは、理に適ったことのように思われる。従って、言語構造の一般的特徴は、人間が持つ経験の道筋を反映しているというよりは、人間の知識獲得能力が持つ一般的特性、すなわち、伝統的な意味における生得観念や生得的諸原理を反映している、という可能性が充分にあるのである。
(8「言語理論と言語学習』p143)

科学的に慎重に語っている雰囲気があって、政治的な発言をする時とは全然違っているのがまた興味深い。五十年超にもわたって多くの研究者とともに伸展している生成文法の研究成果についてのイメージは本書からはうかがうことはできなかったが、適当な解説書をみつけて覗いてみたい気にもなった。AIとかにも関係していそうだ。

www.iwanami.co.jp

【付箋箇所】
18, 37, 59, 62, 78, 81, 88, 91, 94, 98, 127, 138, 141, 143, 165, 177, 193, 205, 207, 212, 215

目次:
岩波文庫版への序文
五十周年記念版への序文
序  文

1 言語能力の理論としての生成文法
2 言語運用の理論をめざして
3 生成文法の構成
4 文法の正当化
5 形式的普遍性と実質的普遍性
6 記述理論および説明理論についての補説
7 評価手続について
8 言語理論と言語学
9 生成力とその言語学的意義


訳者解説
訳者あとがき

ノーム・チョムスキー
1928 - 
福井直樹
1955 - 
辻子美保子
1964 - 

参考:

uho360.hatenablog.com