読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ノーム・チョムスキー『統辞構造論 付『言語理論の論理構造』序論』(原著 1957, 2002, 岩波文庫 福井直樹+辻子美保子訳 2014) 「Colorless green ideas sleep furiously(色のない緑の観念が猛然と眠る)」

チョムスキー生成文法革命の端緒となった著作『統辞構造論』の翻訳。チョムスキーが当初信奉していた構造主義言語学から転換して言語の変換理論と各言語の変換構造に関する研究に舵を切るようになってはじめて出版された著作で、マサチューセッツ工科大学での講義用ノートが元になっていることもあってか、変換規則などの科学的かつ抽象的な思考に慣れていない一般読者層にはどこが革命的でどこが新鮮なのかはいまひとつよくわからない、かなりあっさりした論文だった。『統辞構造論』自体は翻訳で200ページ弱、1973年に書かれたチョムスキーの自伝的色彩の強い「『言語理論の論理構造』序論」が100ページ、さらに訳者解説「「生成文法の企て」の原点――『統辞構造論』とその周辺」が100ページで、付録と解説のほうがチョムスキー生成文法について一般読者層が関心を持てる記述が多い。順番的には訳者解説、付録の序論、本篇の『統辞構造論』と掲載逆順に読んだ方が親しみが湧く。チョムスキーの抽象的なものに対する感性、退屈なものから新鮮で実り多いものに思考対象を転換していく性向、仮説構成の大胆さなどが、解説と序論からは門外漢の一般読者レベルの者でも、かなりの程度読み取れる。

「Colorless green ideas sleep furiously(色のない緑の観念が猛然と眠る)」は、文法的には正しいがまったく意味をなさない文の例としてチョムスキーによって作成され記述された一文なのだが、なんだかすごく詩的な文章で、私は思わず凝視した。『統辞構造論』の第2章、論文がはじまって間もない「文法の独立性」のはじめの部分に登場する。チョムスキーという人の言語に対する感覚に触れることが出来るだけでも一度は読んでみる価値がある。

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【付箋箇所】
15, 22, 158, 176, 199, 246, 249, 260, 270, 345, 353, 390, 391, 401, 403


目次:

統辞構造論
まえがき
第1章 序文
第2章 文法の独立性
第3章 初歩的な言語理論
第4章 句構造
第5章 句構造による記述の限界
第6章 言語理論の目標について
第7章 英語におけるいくつかの変換
第8章 言語理論の説明力
第9章 統辞論と意味論
第10章 要約
第11章 付録Ⅰ 表記と術語
第12章 付録Ⅱ 英語の句構造規則および変換規則の例
参考文献

言語理論の論理構造 序論
第1節
第2節
第3節

参考文献

【解説】「生成文法の企て」の原点――『統辞構造論』とその周辺
第1節 はじめに
第2節 「革命」の背景
歴史言語学―「順序付けられた書き換え規則」という概念
ゼリッグ・ハリスと構造主義言語学
哲学,数学,数理論理学
ケンブリッジでの出会い―モーリス・ハレを中心に
第3節 「革命」の内容
言語研究の目標―言語,文法,言語理論
書き換え系の研究と代数的言語学
変換の理論
第4節 「革命」後の展開――概観
生成音韻論の発展
心理学,生物学との交流
人間言語の代数的研究
デカルト言語学
統辞理論の進展
第5節 おわりに

参考文献
あとがき


ノーム・チョムスキー
1928 - 
福井直樹
1955 - 
辻子美保子
1964 -