20世紀への転換期にあたる時期、野口米次郎(ヨネ・ノグチ)の詩人・文化人としての前半生と、極東日本の神秘性を期待して無名のノグチを受容していった英米の文化芸術層の様子をコンパクトにまとめあげた興味深い一冊。
世紀末思想、アメリカのフロンティアの消滅、神智学やなどスピリチュアリズムの流行、エマソンのトランセンデンタリズム、ウィリアム・ジェームズの哲学、日清日露戦争での東洋日本への注目などの時代情勢のなか、アメリカへ移民渡航した野口米次郎が渡航三年目にして英語詩人として成功し、さらに日本文化の積極的紹介者として質の高い翻訳と言論活動を行っていた様子が、英語圏での月並みで紋切り型な視線からなされた翻訳解釈と並べて紹介されることで的確に強調されている。明治、大正期の海外向けの野口の言葉は、100年以上時が過ぎている現代の日本人にも、日本の古典や伝統的な芸能芸術作品(能狂言や浮世絵)への丁寧で興味深い手引きとなってくれている。
期待されているものを超える詩文でありエッセイを提供しつづけたことで、国際的にも信頼され評価されていた野口米次郎。本書の刊行を含め、近年再評価の機運が高まっているとは言われていても、20世紀初頭にイェイツやタゴールなどと並ぶようにして国際的な評価を受けていた人物とは思われないくらいの寂しい状態がつづいている。鈴木大拙や岡倉天心とまではいかなくとも、もう少し古典として浮上してきてもよい人物ではないかと私は思っている。
Lying ill on Jorney,
Ah, my dreams
Run about the ruin of field.旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 芭蕉(野口米次郎訳)
【付箋箇所】
5, 39, 61, 74, 81, 89, 91, 94, 105, 153, 172, 192,
目次:
第一章 野口米次郎の日本紹介のなかの神秘性
第二章 帰国後の野口米次郎と神秘の関係
第三章 新大陸アメリカのなかの「神秘」志向
第四章 野口米次郎の英詩と宗教性
第五章 「神秘」とその展開
本書に関連する年譜(野口米次郎を中心に)
おわりに
堀まどか
1974 -
野口米次郎
1875 - 1947