宇宙の理解に数学を用いたピュタゴラスがヨーロッパ哲学の最大の源泉であるという主張に目を洗われた。対話と政治倫理あるいは正義や徳についての議論に重きを置いたソクラテスではなく、数学ベースの真理究明と美的探究に重きを置いた知性と技術優位のピュタゴラス教団の教えのほうが西洋哲学のメインストリームで、プラトンもアリストテレスも実はピュタゴラスの系列の数学的哲学精神の持ち主であるという指摘はなんとなく腑に落ちた。また、主語-述語の関係を見るアリストテレスの名辞論理学とは異なる命題間の関係を推論する構成主義的なストア派の命題論理学が中世神学を経由して後の近代科学を遥かに用意したという指摘も記憶しておこうと思わせてくれた。またまた、新プラトン主義者のプロクロスの『神学綱要』とスピノザの『エティカ』の類似性の指摘にも興味を持った。
かなり攻めの利いた新書の作品で、爽快。
わたしは、ピュタゴラスこそ、ヨーロッパ哲学の最大の源泉であると考える。プラトンもアリストテレスも、本質的にピュタゴラス主義者だというのがわたしの見解である。
ピュタゴラス主義とわたしが呼ぶのは、宇宙の理解に関して数学ないし幾何学を土台にするという立場である。プラトンのイデア論も、アリストテレスの万有についての存在論(形而上学)も、実はパルメニデスを通過したピュタゴラス主義の発展形態なのである。
(「はじめに」p10 )
ピュタゴラスからアウグスティヌスとプロクロスの古代までが論考の扱う中心時期で、古代作品が中世に受け継がれていく流れを鋭く説明してくれている。
【付箋箇所】
10,24, 29, 30, 37, 41, 55, 60, 68, 77, 108, 129, 200, 203, 219, 223
目次:
その一 パルメニデスとソクラテス
その二 プラトンとクセノフォンが語るソクラテス
その三 プラトンとアカデメイア
その四 アリストテレス
その五 エピクロスとストア学派
その六 新プラトン主義とアウグスティヌス
ピュタゴラス
B.C.582 - B.C.496
八木雄二
1952 -