読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

國方栄二『ギリシア・ローマ ストア派の哲人たち セネカ、エピクテトス、マルクス・アウレリウス』(中央公論新社 2019)

キュニコス派犬儒派ディオゲネスから説きおこし、ストア派初期のゼノンから後期のマルクス・アウレリウスまでの哲学をたどる概説書。

自分の力ではどうにもならない外的条件に対してどのように振舞うのが良いかに焦点を当て、意志の力で自己統率し運命に向き合うことを良しとしたストア派の哲人たちの思考を、多くの名言をちりばめながら年代順に紹介している。

自身が皇帝であるマルクス・アウレリウス、肯定に仕えたキケロセネカなど、まさに政治の中枢で活動した人物が多くいたにもかかわらず、ストア派の思考の主たる対象に政治が入っていないという本書の指摘は、いわれてみればそのとおりで、ポリスを統治する哲人王や法律の考察が前面になることはなく、もっぱら個人の精神に現われる心像との対峙の仕方に重点が置かれる。ストア哲学は政治哲学ではなく処世の哲学であり幸福論である。それから、外的条件としての運命一般については、それが神意であると考えられていた時代であるということもストア派の著作に触れるにあたっては知っておいた方が良いことかもしれない。作者の國方栄二はストア派の哲人たちを時に仏教の僧侶と比較したりするのだが、神や仏を前提とした世界での自足の態度の顕彰をあまりに強調しすぎると、外的条件と自身の選択の過剰な現状肯定になってしまう可能性もあり、よくない場合も出てくるだろうなというのが私の読後感のひとつとして残った。

運命は望む者を導き、望まぬ者を引きずっていく(セネカ『倫理書簡集』107,11)

諦念ではなく反知性主義的でもない運命愛(ニーチェ)を鍛え上げていくことが現代にも通じるストイックな生き方であるらしい。

本文が読みものとして満足できるものであるのに加え、本文以外で、著者による参考書の案内と編集者による巻末の索引とストア派名言・名句集がたいへんよく出来ていて、素晴らしい。しっかりした仕事をしている。

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【付箋箇所】
34, 43, 45, 74, 90, 91, 106, 131, 136, 144, 168, 173, 175, 178, 182, 198, 209, 233

目次:
第一章 自然にしたがって生きよ――キュニコス派
第二章 時代が求める新しい哲学――ストア哲学の誕生
第三章 沸き立つローマの市民――ストア哲学の伝承
第四章 不遇の政治家――セネカ
第五章 奴隷の出自をもつ哲人――エピクテトス
第六章 哲人皇帝――マルクス・アウレリウス
終 章 ストイックに生きるために


國方栄二
1952 -