読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

『ポプキンズ詩集』(春秋社 安田章一郎+緒方登摩訳 2014)

一様ではない世界の紋様に敏感に反応し、見悶えた人としてのジェラード・マンリー・ポプキンズ。

まだら模様の幻視者という印象が強い。

中世スコラ神学者のドゥンス・スコトゥスイエズス会創立者イグナチオ・デ・ロヨラに傾倒し、英国国教会からローマ・カソリックに改宗し、イエズス会会員になり、教会勤めを続けながら継続的に詩作を行なっていたポプキンズ。初期詩篇からみられる幻影をともなった視覚的な表現力に特徴がある。世界の動的なありように左右されている精神と感覚の息遣いには、眼を引きつけるものがある。
※本書においてドゥンス・スコトゥス Duns Scotus を英語読みのままダンズ・スコウタスと訳しているのは愛嬌

「美しきまだら Pied Beauty」という斑(まだら)推しが明確な詩もあるなかで、この世界の陰翳、まだら模様に関する朗詠が高い質感で迫ってくる詩篇がいくつかある。お勧めはテリブル・ソネットと言われるうちの一篇、1885年、40歳の時の「シビルの葉を読んで」。

地はすでにその存在をこぼち その斑なる姿は 消え果て 散らばり
群がり まざり合い ひしめき合う 個は個に没し また砕け――
すべては忘却の彼方に埋もれ その形を失うのだ 心よ お前はいみじくも私にささやきかける
夕暮は我々にかぶさり 夜は我々を押しつけ 押しつぶし 遂には我我を滅ぼしてしまうのだと
くちばしの形をしたあやしき枝葉のみが まるで竜のように 滑らかな道具のような荒涼たる薄明かりに ダマスク紋様を織りなしている 黒黒とこの上もなく黒黒と
ソネット「シビルの葉を読んで」5-9行 )

整備なしのまだらの世界を凝視する詩人は、危ういものを避けながら平板な世界を当たり前と思考する私のような人間にとっては刺激的な人物にうつる。


【付箋箇所】
序文(ピーター・ミルワード):8, 14
本文:6, 10, 16, 21, 28, 29, 46, 54, 59, 71, 103, 108, 111, 125, 133, 134, 157, 160, 180, 183, 186, 187, 201, 202, 206, 209, 215, 220, 226, 268, 276

ジェラード・マンリー・ポプキンズ
1844 - 1889
安田章一郎
1914 - 2019
緒方登摩
1931 - 2014
ピーター・ミルワード
1925 - 2017