読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

岡本裕一朗『ポスト・ヒューマニズム テクノロジー時代の哲学入門』(NHK出版新書 2021)

21世紀の哲学界での思想動向を図式的に手際よくまとめている導入書。思弁的実在論、加速主義、新実在論の代表的論者の思考の枠組みが、資本主義と情報技術、機械と科学と数学で、非自然化していっているような現代世界に、どう伍していくかが見られ問われている。俯瞰的視点で概観するスタイルで回遊しているこの鳥的視点の書物は、暗い時代にすすむべき方向を示せずに澱んでいる。書き手の問題ではなく、読み手の能力の問題ばかりでもなく、語られる対象の小粒さ、小物感が否応もなく際立ってしまうところに問題があるのだと思う。『現代思想入門』の千葉雅也であれば、ポスト・モダン期の主役級の思索家が去った後の時代における、後続世代の生き延びるための差異産出の思索活動という、同類相憐れむ的色艶がにじみ出て、語りの対象にも同情心に近い敬意も起こってきて、各人の著作に導かれる内密な誘いがあふれているのだが、本書はどちらかというと客観的評価と各思索が提供できるサービスの限界が明示されているパンフレットのようなもので、読みはじめる前の感性と一致しなければ、特段読む必要もないと納得させてくれるような記述に満ちている。閉塞感の強い状況の中で、ローコストで突破口を発見したいという無方向な読者層に向けて、過剰な期待はさせずに的確な案内はしてくれているのだが、選択肢があまりにも貧しく見えてしまうのが難点か。逆に、こんなところで遊ぶ必要はないと決意させてくれるきっかけを提供してくれる書物としては、かなり優れていると言えるだろうか。

とりあえずは、従来の哲学だけではなく、数学や各種科学、IT関係、環境問題、生命倫理、政治経済なども視野に入れないと意味ある思考にはならないし、思索の重点の置き方によっては外野から限界を容易に指摘されてしまうような粘着系世界にあることを、肌感覚で再確認できるような書物ではある。

www.nhk-book.co.jp

【付箋箇所】
43, 55, 92, 99, 109, 131, 161, 216

目次:
第1章 ポスト・ヒューマニズムという論点
第2章 思弁的実在論はどこからきたのか
第3章 加速主義はどこに向かうのか
第4章 新実在論は何を問題にしているのか
終 章 転換期の哲学者たち

岡本裕一朗
1954 -