読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ジャック・ラカン『二人であることの病い パラノイアと言語』(朝日出版社 1984, 講談社学術文庫 2011 訳:宮本忠雄+関忠盛)

ラカンの初期のエクリチュール。初期からのフロイトへの傾倒を知るに貴重な資料5篇。講義録ではない書かれたものとしてのテクストの存在感があるけれども、難解といわれる『エクリ』以前の作品なので、論じ方はいたって素直。読みやすく、とくに強調したいと思われる部分も、結論部にまとまって書かれているので分かりやすい。分析家としての堅実な事象解析とフロイトへの深い傾倒が感じとれることも本書の特徴だろう。

ヒステリーと強迫神経症をひきおこすのは、自己愛が進行するなかへのエディプス複合の誘因的入射である。その典型は、フロイトがこれらの神経症の起源として一挙にそして見事に記述した事象(アクシダン)のなかに見なければならない。
それらの作用は、性が、人間の心的発展すべてと同じく、人間の特殊性を規定する伝達法則に従わされていることを、表明する。誘惑にせよ、暴露にせよ、これらの事象(アクシダン)がその役割を演ずるのは、主体が、彼の自己愛的《癒着》のなんらかの過程で事象から時期尚早に不意打ちされて、それらをそこで同一視によって組み立てるかぎりにおいてである。

「人間の特殊性を規定する伝達法則」とサラッと言ってのけるところに一種の凄味を感じる。このような強靭な思考のなかから、その後の象徴界の理論などの圧倒的な影響力を持った思想が導き出されていったのだろうと、ラカンのスタート地点である論文を読みながら漠然と思った。事象についてもテクストについても繊細かつ徹底的に読むことでしか新たな知見は生まれないということを、言外にラカンは語っているように思った。もしかするとそれしか語っていないのかもしれない。

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【付箋箇所】
46, 78, 90. 112, 123, 148, 163, 176, 185

目次:
症例エメ
≪吹き込まれた≫手記 スキゾグラフィー
パラノイア性犯罪の動機 パパン姉妹の犯罪
様式の問題 およびパラノイア性体験形式についての精神医学的考想
家族複合の病理


ジャック・ラカン
1901 - 1981
宮本忠雄
1930 - 1999
関忠盛
1942 - 1992