読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

今野健『スピノザ哲学考究 普遍数学の樹立と哲学の終焉』(東銀座出版社 1994)

集合論から読み解くスピノザの哲学。幾何学的秩序に従って論証されるスピノザの『エチカ』の構成を、現代数学の世界からその骨組みを透視して見せた論考。合理のみで突き詰め、削ぎ落していった果てのスピノザ哲学のひとつの姿を見ることができて、なるほどと感心した。
作者に興味を持ったのでネット上で検索をかけてみたものの、2000年くらいまでスピノザ協会の会報に論文を寄せていること以上のことは分からずじまい。本書もおそらくは自費出版で、スピノザ協会内でもどのように評価されたかさっぱりわからない。30歳まで京都大学院理学研究科(おそらく数学科)に在籍していたことは巻末経歴から分かるが、それ以降の記載はない。学内には残らず市井の研究者として過ごしているなかで50歳を迎えた時の記念出版かと勝手に想像する。
たしかに注記もなく学内で流通するような論文の体裁でもなく、新書版でエッセイ的にさっくり読み通せる内容なのだが、おもしろかったので続編がないのがちょっと寂しい。また、博士課程までいって、学知もセンスを持っていても、学界やジャーナリズムの外にいると、人になかなか伝わらないし、執筆活動も継続しては続けられないということがうかがわれて、なかなか厳しい世の中だということが知れる。論考が読まれるということは、スピノザの至福とは違うところでの歓びなのだろうけれど、ないよりもあった方が断然いいとおもうのだ。

 


目次:

一 集合論
二 論理体系
三 証明図
四 現実的存在(物理的宇宙)
五 認識論
六 主観性論
七 超限論
八 若干のコメント
付録 「考究」解説

 


【付箋箇所】
48, 66, 85, 92, 113, 117, 133, 142, 175, 182


今野健
1944 -
バールーフ・デ・スピノザ
1632 - 1677