読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

柏倉康夫訳 ステファヌ・マラルメ『賽の一振り』( 発表 「コスモポリス」1897年5月号, 月曜社 叢書・エクリチュールの冒険 2022 )

ステファヌ・マラルメの最後の作品「賽の一振りは断じて偶然を廃することはないだろう」の最新日本語訳。柏倉康夫によるマラルメ翻訳は、晦渋さが極力排除された理解しやすくイメージを得やすいものとなっている。さらに、先行する研究や翻訳への目配りが届いた解説、詩作品が創作され出版された当時の状況などの紹介もあって、マラルメの作品により近づけさせてくれるための配慮が行き届いている。また、オディロン・ルドンの石版画を挿入した「賽の一振り」豪華本刊行準備がなされていたことを紹介しつつ、当のルドンの石版画3点(4点の作成されたうち1点は喪失)を収録し、その石版画とマラルメの詩句との関連を取り上げているところは他のマラルメ訳書にはない特徴となっている。
「賽の一振り」の最終行は「あらゆる思考は賽の一振りを放つ」で、その詩句にこの訳書に込められた訳者の思考を当てはめてみるならば、めざましい「賽の一振り」になっている。80歳を越えてなお探究心と執筆力の衰えない訳者には、ただただ頭が下がる。星明りだけが頼りの夜の海で、難破を回避しようとする賭けの要素を多分に含んだ行為を詠うマラルメ詩篇「賽の一振り」に、フランス詩の明晰な日本語訳という、日本人読者にとっては確かな明かりを付け加えてくれているのが、本書が放つ「賽の一振り」であった。

getsuyosha.jp


柏倉康夫
1939 -
ステファヌ・マラルメ
1842 - 1898

参考:

uho360.hatenablog.com