読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(平凡社ライブラリー 土居光知訳 1995)

角川文庫のブレイク詩集の訳者である寿岳文章(1900-1992)より十四歳年長の英文学者土居光知(1886-1979)によるブレイク初期の三詩集の翻訳アンソロジー

無心の歌(The Songs of Innocence、1789年)
経験の歌(The Songs of Innocence and of Experience、1794年)
天国と地獄の結婚(The Marriage of Heaven and Hell、1790~1793年頃)

これは角川文庫と同じ構成で、ブレイクの彩色版画の図版がないことや訳者や解説者のネームバリューの違いなどで、商品としては劣勢に立っているような文庫本なのだが、複数の訳者が同じ作品を訳してくれていると、時間と気力に余裕があれば、比較しながら読んでみることが可能となるので、海外の詩にすこし関心があるものとしては、存在してくれていることだけでも有難かったりする。
本書のもとになった訳業は1950年代から1960年代にかけてのもの。
「無心の歌」「経験の歌」については英語の韻文を日本語の詩として成り立たせようとしているために訳者の介入がかなり入っているようで好みや評価は人によって大きく分かれると思う。私は単にへえっと思いながら読んだ。
土居光知の翻訳でよかったのは散文詩の「天国と地獄の結婚」。パラケルススのことをパラセルサスとカタカナ化したりするようなどうにもいただけない所はあるものの、散文詩の表現内容自体はよく伝わるような訳しかたをしていると思った。

それには先ず人間の霊と肉とが別々であるとの考えを消すべきである。これを私は腐食薬を用いる地獄の印刷法によってなそうと思う。この方法は目に見えている表面を消し去り、隠された無限を顕わすのであって、地獄では健全で、かつききめがある。
知覚の戸が拭い浄められたならば万物はありのままに、無限に見える。
(天国と地獄の結婚 「六千年の後に世界が火で焼かれるという……」p141 )

上記引用部分は、ブレイクの版画の作成法とも重なるところがあり、ブレイクの芸術観がよくうかがえる優れた訳であろう。
本訳書に収められた三作品は、長尾高弘氏による新訳を青空文庫で読むことも可能だ。原詩だけでなく訳詩もさまざまあるのは、読みの幅が比較的簡単に拡げられるので、とてもいいことだと思う。

www.heibonsha.co.jp

www.kadokawa.co.jp

www.aozora.gr.jp

ウィリアム・ブレイク
1757 - 1827
土居光知
1886 - 1979
寿岳文章
1900 - 1992
長尾高弘
1960 -