読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ラビンドラナート・タゴール『タゴール詩集』(彌生書房 世界の詩39 山室静訳 1966)

『ギタンジャリ(英語版)』ただ一冊の功績によって1913年にアジア初のノーベル文学賞を受賞したラビンドラナート・タゴールの日本版詩選集。基本的にはベンガル語の詩人であるが、本人による英訳、というよりも英語による改作した作品のほうが広く読まれていて且つ評価も高い。ベンガル語の詩の音韻やベンガル語特有の言い回しなどが、他言語に移され整えられたために、一般に受け入れられやすい丸みを帯びた味わいになったがための世界的な受容なのだと考えらられる。私自身も英訳版の詩でタゴールの魅力に気づいた人間のひとりだ。
21世紀になってからは、風媒社の川名澄訳、未知谷の内山眞理子訳で、新たなタゴールの詩集が多く刊行されるようになって、より親しみやすいものとなってきてはいるが、多くは単著の翻訳で、タゴールの全活動期間にわたるような詩選集はまだ現れてきていない。そうすると、すこし刊行年が古くても、かつて多くあった詩選集シリーズに頼るのがよい。
本書は彌生書房の世界の詩シリーズの第39巻。本編部153ページに12詩集から全198篇の詩を集めている。
※『詩選集』Aと『詩選集』Bはタゴール没後に魅訳の詩を集めた同じ詩選集で、日本版アンソロジーの編集の都合上、作成時期によって二つに分けられている

『園丁』(1912)から21篇。
『詩選集』A(1942:第一次大戦前後までの作)から15篇
新月』(1913)から20篇
『愛人の贈物』(1918)から7篇
『踏切り』(1918)から14篇
『迷える鳥』(1916)から短詩30章
『螢』(1928)から短詩15章
『ギタンジャリ』(1909:英語版)から18篇
『白鳥』(1923)から10篇
『収穫祭』(1916)から16篇
『捉えがたきもの』(1921)から14篇
『黄金の舟』(1932)から6篇
『詩選集』B(1942:晩年の作)から12篇

読み応えのある分量と内容で、代表作『ギタンジャリ』におおきく偏らない編集方針にも好感が持てる。インド的な至高神であろう「あなた」に向けて謳いあげるスタイルは、東洋的神秘の淡くて穏やかな発現のようでもあり、また徹底して日常化され世俗化された自然観生命観であり、「あなた」と呼ぶものがない私のような読者層にも、じんわりと響いてくる。タゴールは繰り返し読みたくなる詩人のひとりである。

私が来ると――あなたも自分でやって来て、私の顔を見つめた
私がさわるとあなたは慄えた
あなたは真のあなた自身に触れるのを感じた!
(『白鳥』より「あなたがひとりで自分自身にゆだねられていた時」部分)

ラビンドラナート・タゴール
1861 - 1941
山室静
1906 - 2000

 

参考:

uho360.hatenablog.com

uho360.hatenablog.com