読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ウィリアム・ブレイク『ブレイク詩集』(彌生書房 世界の詩55 寿岳文章訳 1968)

ブレイクの創作全期間のなかから選ばれた詩篇によるアンソロジー。前期の代表的詩集『無心の歌 The Songs of Innocence』(1789)、『有心の歌 The Songs of Experience』(1794)の詩篇におおきく偏ることなく、全体的な業績が想像できるような編集がされているところに、他のブレイク詩集にはない特徴がある(岩波文庫の対訳ブレイク詩集とブレイク詩集が同系統のアンソロジーだろうか)。全84篇のうち「無心の歌」「有心の歌」から12篇ずつ代表的作品が取られていることを考えると、ほかの詩篇の選択もよく読まれている作品が多いのであろうという想像がはたらく。2022年現在ブレイクの詩をたくさん読もうと思った場合には、名古屋大学出版会の梅津濟美訳『ブレイク全詩集』(1989)があるのだが、こちらはなかなかお目にかかれないし、敷居が高そうでもあるので、すこし古いとはいえ彌生書房の『ブレイク詩集』は手に取って読んでみるのにちょうどよい。
『無心の歌』『有心の歌』ではそれほど強くは主張されない精神の負の側面、暗部の力というものにもブレイクの詩魂は深く関わっていて、『天国と地獄の結婚 The Marriage of Heaven and Hell』という詩集もあるように、善と悪、天使と悪魔、天国と地獄という両極の存在からともに生命の力を汲みだしながら、理性一辺倒の桎梏から逃れようとする志向性が感じられる。
『無心の歌』『有心の歌』『天国と地獄の結婚』以外から収録されている59の作品が、どの詩集に属するものかは残念ながら表記されていない。こちらは時間ができたときに他の詩集などと照らし合わせながら探ってみたいような気もしている。
ほかには、訳者解説でブレイクのことを「恐るべき子供」と評していたのが記憶に残った。幻視者であり宗教的にも政治的にも独特の思想を持ち、また生業の版画制作においても特異な技巧と主題を追求して揺らがなかった頑固さや奇矯さを思うと、「恐るべき子供」の評がとてもしっくり心におさまった。

わたしは 悪魔が呪うのを聞いた
ヒースや針えにしだの荒野の上の中空で
「慈悲が 慈悲づらできるのは
貧乏人がいる そのおかげだ

哀憐も処置なし
みんなが こちらと同様しあわせならば」

(「わたしは 天使が歌うのを聞いた」部分)

毒にも薬にもゴミにも宝にもなる職人気質の破天荒な想像的芸術家。

 

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www.iwanami.co.jp

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ウィリアム・ブレイク
1757 - 1827
寿岳文章
1900 - 1992

参考:

uho360.hatenablog.com