読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

喜連川優+野城智也 編『東大塾IoT講義』(東京大学出版会 2020)

繋がらないことの優位なんてほとんどないが、あまり繋がっていたくもないというのが私の本心。

Windows95と先頃公式には引退されたieの組み合わせから広まったwebアプリケーションの世界で、開発および保守運用に携わり、生活の資を得てきた人間ではあるのだが、実生活では極端なアナログ人間で、繋がることで新たに発生してくる脅威や対応責任にも仕事がら過剰に反応するようになっていることもあって、それらをできるだけ回避する癖がついてしまったものだから、ネットの世界よりは匿名性と一見性が確実に担保された都市的実物経済にもっぱら頼って生きている。

知られずにいること、攻撃干渉される対象から外れていること、時代の波に可能なかぎり洗われないこと、面倒に巻き込まれないことなどが基本的行動方針になっているのだが、仕事上、先端技術動向を多少なりとも知っていなければならないので、月一冊以上はICT(Information and Communication Technology 情報通信技術)を読むようにしている。

本書は主に最新デジタル技術と共に暮らすことで医療や介護や健康にかかわる面でどのような利便性が出てくるかということを、各デバイス開発研究者が講義したIoT啓蒙書。皮膚に不快感なく直接貼り付けられるようなウェアラブルエレクトロニクスを語った第6講「ウェアラブルエレクトロニクス――IoTの一部としての人体(染谷隆夫)」やIoTデバイスへの電力供給を設置環境から実現する技術を語った第8講「MEMSエナジーハーベスターによるIoTへの電力供給(年吉洋)」が技術的なところでは面白かったが、それよりも第3講で触れられることの多かったビジネス化あるいはマネタイズに関しての問題提起がわりと深刻に響いた。一件100万円程度のごく小規模のシステム構築が潜在的需要として多くあるにもかかわらず、ビジネスとして成立しにくいために手を付けられていないことが多く、問題を抱えた地方の第一次産業が技術の恩恵を受けられていないという指摘。自分のこととして考えても、これらの案件は手を出しにくい。自分がある特定の仕事に従事しながらそれに関するシステムを自己責任で作るというのならやるだろうが、営利目的で関わるとなると、製造後のケアなども含めて、各所でもめ事が起こりやすそうな恐さがある。隙間産業としてうまく成り立たせるのにもかなりの商才が必要なのではないかとは思った。凡庸なサラリーマンが出る幕ではなさそうだった。

www.utp.or.jp

現代の産学連携の一端をうかがい知ることもできる講義録。

 

【付箋箇所】
58, 59, 61, 63, 70, 74, 84, 93, 95, 117, 128, 136, 161, 162

目次:
まえがき――「コトのインターネット」としての「すまうIoT」(喜連川優・野城智也)

Ⅰ IoTにすまう
第1講 すまいからの未来提案――その実例と展望・課題(高田巖)
第2講 ネット回線事業からインテリジェントホームへ(武田浩治)

Ⅱ あまねく進むデジタルトランスフォーメーション
第3講 ユビキタスコンピューティングからIoTへ(越塚登)
第4講 デジタルの威力――事業・社会・地方を変える(森川博之)
第5講 何でも安心してつながるようになるためには(馬場博幸)

Ⅲ イノベーションを推し進める技術たち
第6講 ウェアラブルエレクトロニクス――IoTの一部としての人体(染谷隆夫)
第7講 「自分を見るメガネ」の可能性(稲見昌彦)
第8講 MEMSエナジーハーベスターによるIoTへの電力供給(年吉洋)

あとがき――IoT四原則(野城智也)