読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ロビンドロナト・タゴール『タゴール著作集 第一巻 詩集1』(第三文明社 1981)

タゴール自身の英訳詩からの重訳をベースにした訳詩集。九つの詩集と初期詩篇をおさめる。代表作として森達雄訳の『ギタンジャリ』のほかに片山敏彦訳『渡り飛ぶ白鳥』が収録されているところに大きな意味がある。    両者とも、梵我一如思想の色濃い「わたし」から至高者たる「あなた」への呼びかけの歌が特徴的。
東洋的な一元的汎神論であるので現代日本人にとってもどこか親しみやすさがあるのだが、至高者たる「あなた」が、基本的には非物質的な存在でありながら人格をもったものとして詩に呼びこまれるときには、全面的には賛同できない疎隔感が湧いてきてしまうのも確か。信仰や世界観に十分に賛同できないと、どれだけすごい才能であることが分かっていても、没入できないし、摸倣反復したいという思いも回避せざるを得ない。とても読み心地のよい詩の数々であり、たいへんよく構成された詩集であるだけに、諸手を挙げて賛美出来ない自分の受容能力の乏しさに、すこしがっかりしながらくりかえし読んでいる。
より身近になるような変換法則が見つからないかななどと思いながら、くりかえし読んでいる。

救われんことを性急に渇望せしめるな、ただおのが自由を得るための忍苦を望ましめよ。
わたしをして成功のうちにのみおんみの慈愛を感じるごとき卑怯者たらしめず、わが失敗のうちにおんみの手の把握を感ぜしめよ。
山室静訳『果実あつめ』「わたしをして危難から守られんことを……」部分)

詩篇自体だけでなく、片山敏彦や田村隆一が訳者として名を連ねているところなどにも、タゴールの詩人としての大きさを感じさせる。

目次:
1 ギタンジャリ (1913) 森達雄 訳
2 園丁 (1913) 藤原定 訳
3 新月 (1913) 高良とみ+高良留美子 訳
4 果実あつめ (1916) 山室静
5 渡し場 (1918) 山室静
6 愛人の贈り物 (1918) 山室静
7 迷える小鳥 (1916) 藤原定 訳
8 渡り飛ぶ白鳥 (1916, 1955) 片山敏彦 訳
9 とらえがたきもの (1921) 田村隆一
10 初期詩抄 森本達雄 訳
解説 大岡信

ロビンドロナト・タゴール
1861 - 1941