読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

ひろさちや『道元 仏道を生きる』(春秋社 2014)

道元の生涯をたどりながら思想と布教の展開を跡づけるという、いつもながらのひろさちやの語り口で成立している一冊。

ひろさちや道元を見る時のポイントとなっているのは、貴族が没落し権勢が武家に取って代わられる鎌倉初期の激動の渦中にあった超名門貴族出身であったこと。

権謀術数渦巻く政界に生きる家柄で、かつ文化的素養も持ち合わせる上流階級に生まれたが、父、母ともに幼くして亡くし、元服成人期である14歳の時に世俗の身を棄てて出家している。すべてを棄てて仏道に邁進する道元であるが、身に沁みついた出身階層の気位の高さと文化教養への傾斜がしばしば顔を出し、嫌っているはずの政治的な生臭い行動にも時に深入りする。理想はこのうえなく高く、自身の仏道追求も布教も弟子教育も著述も究極の実践としての歩みを刻むのであるが、時代の趨勢から思い及ばぬ事柄に逢って挫折感や不快感を味わったり、思わず知らず思想転換をしているところなども、ときに想像を交えながら著者は解説していく。ひろさちやの解説は、生きた人間がどのように仏教に魅かれ関わっていったかという視点から生き生きと再現されているので、祖師たちの知的な部分と情動の部分の双方が伝わり、より興味を持って読みすすめることができる。

道元には、どこかしら神経質なまでに潔癖なところがあります。やはり彼が貴族の出だからでしょうか。しかしこの話は『建撕記』が《前代未聞ノ事ナリ》とコメントしているように、道元の行動はあまりにもヒステリックです。彼は鎌倉幕府からの寄進を辞退した。(第8章 鎌倉下向 「北条時頼からの寄進」p157 )

よいところばかりではなく、奇妙なところ、受け入れがたいところも併せ紹介しているところに、著者の公平さがあらわれている。

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【付箋箇所】
24, 33, 37, 42, 57, 84, 106, 118, 127, 154, 157, 182

目次:
序 章 道元の「身心脱落」
第1章 一つの疑問
第2章 仏が坐禅をする
第3章 正師と出会う
第4章 深草の地に拠点をつくる
第5章 吹き荒れる嵐
第6章 永平寺の建立
第7章 「出家至上主義」
第8章 鎌倉下向
第9章 京洛における入滅
終 章 道元から何を学ぶか?

道元
1200 - 1253
ひろさちや
1930 - 2022