ローティの教え子でもある冨田恭彦が選出し解題を付けて訳出したローティの後期の論文選集。著者最晩年に自らの生涯を語った「知的自伝」も含まれていて、ローティを読みはじめるにも適した一冊。本論集は、編訳者によって、各論文の核になる部分が解題で引用付きで丁寧に解説されているので、本文を読むのにとても助けとなってくれる半面、ローティ自身の文章から直接衝撃をうけたいという場合には若干水を差されたような感じになることもある。順番的には本文から読んだ方が刺激的かもしれない。
副題にも掲げられているローティを読み解く際のキーワードとなるであろう「紫の言葉」については、定義や参照すべきローティの論考に触れられないまま終わってしまっているのが残念。紫は赤と青の混合色なので、公的なものと私的なもの、哲学と詩、真理と言語、イデアと生活様式、理性と想像力、分析哲学と大陸哲学といった、ローティが思考し論ずる際に検討し配慮する二極の中間で融合しなにかしら変容を齎すような言葉が「紫の言葉」ではないかと、今のところ個人的には考えている。いつか本人によって語られたところに出会うことを期待しつつ本書を読み終えたのだが、本書の中に似たような印象を与える言葉を探すとすれば、それは後期ヴィトゲンシュタインを論ずるときに出てきた「治療的」という語句ではないかとも思っている。
私は哲学的諸問題の興亡を詳しく語る物語――ヴィトゲンシュタインの言う「治療的」機能を果たす物語――を専門としてきた。この種の治療は、ナンセンスを意味あるものに置き換えるのではなく、過去の想像力の産物のあるものは古臭く薄汚れてしまっているので取り換えてはどうかと提案することだと私は考えている。
(第7章「知的自伝」p205 )
最悪のほうに落ち込んでいかないように手当を随時施していくという、アイロニカルではあるが積極的に関与を続けるプラグマティズムの思想が随所にみられるローティの論文集。
【付箋箇所】
8, 24, 31, 40, 58, 69, 81, 106, 125, 180, 181, 184, 197, 205, 216, 221, 223, 227, 230
目次:
編訳者まえがき
第1章 ヴィトゲンシュタイン・ハイデッガー・言語の物象化(一九八九年)
【解題】
【本文】
第2章 合理性と文化的差異(一九九一年)
【解題】
【本文】
第3章 亡霊が知識人に取り憑いている─デリダのマルクス論(一九九五年)
【解題】
【本文】
第4章 分析哲学と会話哲学(二〇〇三年)
【解題】
【本文】
第5章 反聖職権主義と無神論(二〇〇三年)
【解題】
【本文】
第6章 プラグマティズムとロマン主義(二〇〇七年)
【解題】
【本文】
第7章 知的自伝(二〇〇七年)
【解題】
【本文】
編訳者あとがき
リチャード・ローティ
1931 - 2007
冨田恭彦
1952 -