読書三昧(仮免) 禹歩の痛痒アーカイブ

乱読中年、中途と半端を生きる

松岡正剛『間と世界劇場 主と客の構造2』(春秋社 1988)

昭和63年(1988)は今から34年前、編集者松岡正剛30代後半から40代前半に行った対談10篇を集めた一冊。錚々たる対談相手にすこしも引けを取らない松岡正剛の博覧強記ぶりに舌を巻く。それぞれの専門分野以外についても視界が広く且つ深い人たちの放つ鋭い解析力をもった圧倒的な言語の力によって、人が変われば住まう世界が変わることの驚きと厳しさを教えてくれる。

対談者と主題は以下のラインナップ。

第一章 主客の交換
 主と客の転位をめぐって ―山口昌男
 交換と贈与 ―ジャック・デリダ
第二章 物語の劇場
 能と世界劇場 ―フランシス・イエイツ
 本朝モノカタリ談議 ―荒俣宏
 編集された日本文化 ―吉本隆明
第三章 文化の言葉
 世界劇場あるいは主客五十三次
第四章 来臨する時間
 時間のノマドジーナム・ジュン・パイク
 間と機会と耳男 ―ジョン・ケージ
 オトヅレと無秩序 ―小杉武久
第五章 場所の問題
 夢の場所・無の素粒子 ―ピエール・ド・マンディアルグ
 非平衡系のタオイズム ―中沢新一

全体的に理論家に厳しく芸術家に寛容なところがあった。なかでも松岡正剛がいちばん不本意であったであろう、エクリチュールの外部をめぐって話のかみ合わないジャック・デリダとの対談が、最も印象に残った。頑固者同士のぶつかり合いのピリピリした場の空気感に、言論で生きている人間の本気度が伝わってきて、読んでいるほうも緊張してしまった。それに続くのがちょっと嫌味の言葉も混じった中沢新一との対談。譲れないものがあるもの同士の会話からは、一般的な単著では感じ取りにくい特徴のようなものが浮かび上がってくるので、読者としてはありがたい。幾分古い刊行物ではあるのだが、まだまだ内容的には古びていない、というか、古びようのない今なお残る古層に新たに触れられることのできる資料となっている。

【付箋箇所】
14, 18, 21, 22, 35, 36, 40, 46, 122, 128, 140, 175, 233, 236, 243, 245, 249, 250, 257, 265, 301, 307, 332, 338, 361, 366

松岡正剛
1944 -
ジャック・デリダ
1930 - 2004